Eテレ「アイラブみー」が絵本に 作者・竹村武司さんに聞く、自分を大切にする包括的性教育 「国語算数理科”自分”くらい大事」

 
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絵本「アイラブみー」の表紙

 5歳の主人公「みー」がさまざまな疑問にぶつかりながら、自分を大切にするとは何かを考えていくNHK・Eテレの未就学児向けアニメ「アイラブみー」(水曜午後3時45分)から絵本が出版されました。タイトルは「アイラブみー じぶんをたいせつにするえほん」(新潮社、1760円)。番組の初回で取り上げた「なんでパンツをはいてるんだろう?」がテーマです。絵本の文章とアニメの脚本を担当している放送作家の竹村武司さん(45)は「僕も学びながら、なるほどなるほど、と思いながら書きました」と話します。

「おれ、性教育受けたっけ」がスタート

―包括的性教育のエッセンスを取り入れたアニメですが、引き受けることにためらいはなかったですか?

 ないです。お話をいただいたとき、子どもが7歳と3歳で、まさに「性教育をどうすればいいんだろう」と悩んでいたので。「おれ、性教育受けてきたっけ?」と気づき、「これは役得だ! 自分自身も学んでいくぞ!」と思いました。

 性教育と聞くと、性器や生理の話かなと思いますよね。ぼくたちの時代の学校あるあるで、女子生徒だけが集められている、あの世界。この国の性教育の根本的な間違いだと思いますが、恥ずかしながら、あれが思い浮かびました。

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放送作家の竹村武司さん

 でも、番組を企画したNHKエデュケーショナルの藤江千紘さんや秋山路子さん、クリエイティブディレクターの古屋遥さんらスタッフと話をしていく中で、性器とか生理などというのはあくまで一部であり、包括的性教育とは「自分を大切にする教育なんだ」と知りました。自分を大切にする教育の中に性器とか生理とかがある。そこからぼくの学び、気づきが始まりました。

 「自分を大切にする」って簡単な言葉ですよね。でも、あれ?と思うわけです。「なんだっけな、自分を大切にするって」と。そんなことは親からも先生からも一度も言われたことがない。「人を大切に」「思いやりが大事」「おもてなし」「いかに人に迷惑をかけずに生きるか」みたいなことばかり教わってきた。他人を大切にするのももちろん大事だけれど、自分を大切にしなきゃいけない、という一番大事なことを教わっていないなと気づきました。

―アニメを作る上で竹村さんはどのような役割ですか?

 なんとなくのテーマがあって、こういうのがこうなって、これでどうですか?という設計書みたいなものが届くので、そこに足し算引き算して肉付けして物語にしていくのがぼくの仕事です。ぼくの本業である放送作家にはいろんな仕事がありますが、そのうちのひとつが「咀嚼(そしゃく)」なんです。

 世の中の難しいことをかみ砕いて、これってこうだよねと提示する。「アイラブみー」も、テーマだったり包括的性教育だったりについて、未就学児に伝えなきゃいけない。そこにかみ砕きの作業があります。放送作家はそこが得意なのです。

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絵本「アイラブみー」のテーマは「なんでパンツをはいてるんだろう?」

 ぼくが書いた物語を監修の先生に見ていただき、「この言い方はよくないね」などと〝赤入れ〟をしてもらいます。ほかのアニメに比べると言葉が多いのが特徴かもしれない。説明のセリフが多い。

 大人同士がしゃべるときには共通の認識があるので、言葉をそいでいく。言わなくても分かるだろう、と。でも子どもなので、「ちゃんとこの言葉を入れないと勘違いしちゃう」と言葉を足す作業が多いイメージです。いかにぼくらが省略しながら会話しているのかを実感しますね。

「ふたりのママ」も子どもは受け入れる

―友だちやいろんな大人とやりとりする中で、みーがさまざまなことを発見していくストーリーはどのように形作っていったのですか?

 「主人公がテーマを掲げて思考実験して答えを見つけていく」ということだけ、なんとなく決まっていました。ぼくは「行って帰ってくる」話が好きなので、どこかに行って成長して帰ってくるみたいなのがいいんじゃないかなと思って。家の中だけの話にしない。昔に比べて共同体みたいなものがなくなっていますが、いろんな人の意見を聞いて自分の中で学びや気づきがあるのがいいな、と。親もひとつの意見でしかないから、ほかにおじさんとか、よくわからないお姉さんとか、いろんなキャラクターを考えました。

―みーは父親と2人暮らしですが、あまりない設定ですね。

 そういうことはこの番組で多いです。友だちの親(ひーパパ)は義足だったり、「ふたりのママ」がいたり。

 実は、最初は、パパが家にいて、パパしかいないというみーの家庭は特殊なケースすぎて、子どもたちが自分のことと置き換えられるストーリーだと思えないのではないか、と心配しました。でも、監修の先生方から「アイラブみーではそういう世界(設定)なんだという、子どもにとっていろんなコンテンツがあるのが大事で、これはこれでいいんだ」という趣旨のことを伺い、「そっか、そうだな」と。

 実際、めろんさんとそーださんという、「ふたりのママ」として一緒に子育てしている同性カップルが出てきたとき、娘に「女性同士のカップルもいるよね」と話したら「そりゃいるでしょ、同じ性別同士でも好きな人」と。当たり前に受け入れていました。

 大人が勝手に色眼鏡をかけているだけなんです。子どもが「全部それが当たり前」と感じられたら、それはいい世界ですよね。

写真 竹村武司さん

―「なんでパンツをはいてるんだろう?」って考えたことがありませんでした。

 ですよね。そこが子どものすごいところだな、と。子ども時代には自分も考えていたのかもしれず、悲しいことでもありますが。「アイラブみー」を書いているときは、精神年齢のダイヤルをどんどん小さくしていく感じがありました。普段は疑問に思わないことも積極的に思っていこう、という意識は芽生えましたね。

 大人だと生きていく上で必要ないから考えなくていいことや、スルーしたほうが世の中効率良くいくことがいっぱいありますよね。別にそれを考えなくても生きていける。でも実はそういうところに人間の大事な、生きる上での本質みたいなものがある気もするんです。

 目先の仕事を片付けなきゃ、家事しなきゃ、そんなこと疑問に思っている場合じゃない!となりがちですが、せめてこの番組を見ているときくらいはそのスイッチになってもいいんじゃないかなと思います。

親が怒るときって、だいたい自分の都合

―番組でおねしょを取り上げた回で、頭ごなしにおねしょを怒るのではなく「おしっこタンクが小さいからなんだよ」という説明が分かりやすかったです。

 うちもまだおもらしをするので、そのときはつい怒ってしまいそうになりますが、でも大人だって漏らしますよね。まず「気持ちはわかるよ」と言って、共感から入る、ということがすごく大事だと思います。

 「アイラブみー」の登場人物は、みんな怒りません。怒らなくても子どもに伝わる世界が、ぼくにとってユートピアです。みーに「パンツのなかを見せて」と言われたおじさんも、怒っているのではなくて「ダメに決まってるでしょ」と言っているだけ。みーのパパもほとんど怒らない。

写真 竹村武司さん

 ぼくは「子どものしつけ=怒る」ということが、なんとなく嫌なんです。厳しくしたり注意したりすることはあっても、怒るって必要かなとずっと思っていて。

 ぼくはあまり怒れなくて、一度怒ったときには怒り慣れていないのでめちゃくちゃ声が大きくなって、子どもたちがすごくおびえました。でもなんで怒ったのか覚えていない。きっとしょうもないことだったんだろうなと思います。親が怒るときって、だいたい自分の都合なんですよね。

 僕自身、怒られて育ちましたが、言うこと聞いてないし、怒りというのがあまり有効じゃないことも分かっている。つい怒っちゃうのも分かりますが。親だけじゃなくて、そこらへんのおじさんもうまく誘導してあげる、そんな世界がいいなと思います。

―絵本を手がけるのは初めてとのことですが、苦労はありましたか?

 アニメで全キャラクターの声を担当する満島ひかりさんが「これって私の読み聞かせだよね」と話していて、「確かにそうだな」と。そこで、アニメの脚本は満島さんが読み聞かせをしているように書いていました。そこから絵本に落とし込んだのでスムーズでしたね。満島さんの音楽の素養だと思うのですが、せりふがメロディアスなんです。楽譜にしたらすごいのではないかな。

 アニメを見た大人からは「自分が学んだ」という意見が多いんです。私が気づかされた、私が面白い、と。「自分を大切に」という言葉を、どれだけみんながちゃんと意識してこなかったのかということではないでしょうか。「国語算数理科〝自分〟」くらい、自分について学ぶことを義務にしてほしいです。自分を大切にしてこそ他人を大切にできる。どちらも大事なことでしょう。

 親が答えを押し付けるのではなくて、一緒に学んでもらえたら。そして「アイラブみー」もひとつの答えに過ぎないので、それぞれの答え探しみたいなのができるといいなと思います。

竹村武司(たけむら・たけし)

 1978年、東京都出身。広告代理店勤務を経て放送作家に。担当番組は「魔改造の夜」(NHK総合)、「植物に学ぶ生存戦略」(NHK・Eテレ)、「山田孝之の東京都北区赤羽」(テレビ東京)など。

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