〈坂本美雨さんの子育て日記〉76・黒柳徹子さんの話に涙、涙…「きみは本当はいい子なんだよ」

(2024年1月17日付 東京新聞朝刊)

韓国での公演に娘も同行。ソウルの夜に駆け出していく娘(前康輔撮影)

トットちゃんの人生を支えたもの

 昨年末、私のラジオ番組で黒柳徹子さん、草野仁さん、安藤優子さん、関口宏さんというレジェンド司会者を連日お迎えする特別な週があった。みなさん優しく壁を作らず話してくださり、いつのまにか緊張がほぐれて独特な会話の波に揺られていた。

 特に黒柳徹子さんのお話と、話されている様子は思い出深く、そのことを人に伝えようとするたびに涙目になってしまう。ちょうど徹子さんのベストセラー自伝「窓ぎわのトットちゃん」がアニメで映画化され、舞台挨拶に立たれた日の収録だった。

 小学生時代のトットちゃんのこと、通っていたトモエ学園のことを話し始めた途端、ハツラツとした徹子さんのお顔がさらにパッと輝いた。もとの学校を「問題児」として退学になったトットちゃんは、当時としては珍しい、個を大切にする教育をしていたトモエ学園に通うようになって人生が一変する。

 小林宗作校長先生と初めて会った時に「なんでも話してごらん」と言われ、本当に思いつくまま全てを話し、4時間くらいたったところでついに話が尽きた-。「だからね、私よく覚えているの、『お母様が作ってくれたワンピースのここの柄がお母様は気に食わないんですって』って最後に言ったの。もうそのくらいしか話すことが残ってない、って思ったことを鮮明に覚えてるのよ」と徹子さん。先生はその間ずっとただ耳を傾けてくれていたらしい。

 1年生の子どもの話を4時間聴いてあげられる大人がいるだろうか。私は娘に話しかけられて、どれだけ「ちょっと待って」と言ったり適当に聞いたりしているだろうかと恥ずかしくなった。そして、先生はその後ことあるごとに「きみは本当はいい子なんだよ」とトットちゃんに伝えたそうだ。徹子さんは、ついさっき褒められた少女のようなうれしそうな顔をしていた。

 自分の話を真剣に聴いてくれる人がいること、誰かが「きみはいい子だ」と本気で信じて、それを伝えてくれること。それがこんなにも一人の人生を支えるのだ。その先生の言動とトモエ学園での思い出が、その後80年余りの間、徹子さんを支えてきたのだ。そのことがありありと伝わって涙をおさえられなかった。

 どんな環境にいても自分を肯定し、希望を見つけながら生きる力、という色あせない宝を、私たちは子どもに手渡すことができる。ちょうど娘は当時のトットちゃんと同じ年頃。私もそんな存在になれるだろうか。

坂本美雨(さかもと・みう)

 ミュージシャン。2015年生まれの長女を育てる。SNSでも娘との暮らしをつづる。