〈坂本美雨さんの子育て日記〉72・子どもの好きなものが親にとって「健全」でなくても

(2023年8月23日付 東京新聞朝刊)
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夏休みの自由研究で毎日のようにパンをこねている娘

坂本美雨さんの子育て日記

過去の自分も認めてあげられた

 この回は書き出すのが難しかった。先日SNSでたまたま、私の言葉がうすっぺらい、という言葉を目にしてしまったからかもしれない。いつも100の応援をもらっているのに、1の鋭い言葉は何度も反芻して刺さってしまう。年齢を重ね、ネガティブな言葉がそのまま自己評価になるようなことはなくなったが、それでもこうなのだから、子どもたちは本当に大変な時代を生きているなぁと思う。ただ平穏に暮らしているだけでも知らないところでさらされたり好き勝手に書かれてしまうのだから。

 私のスタッフの娘さんは思春期に突入し、自分のスマホを持ち、SNSにも触れ始めたところだ。大勢のグループLINEでは、同級生や先生の悪口が飛び交うこともあるらしい。その中で自分らしくいること、本当の気持ちを堂々と表明することがどんなに難しいか、想像に難くない。それでも彼女が友達への優しさや先生への公平な見方を保つ様子を、はたからではあるが見ていると、なんて勇敢な人だろうと思う。彼女が、娘のお姉さんとしてそばにいてくれることがとても心強い。

 そんな彼女は今、「推し活」道まっしぐらで、はやりのメークを研究し、ファッションも変化している。それがすこしニッチな世界で私たち親にはなかなか理解しがたいこともある。娘にも数年後に訪れるであろうこの変化を近くで見ていると、たしかに心配なことはたくさんある。子どもの好きなものが親の目から「健康的」ではない場合、とても戸惑う。けれど、その娘さんの成長を観察するうち、親が魅力をわからないからといって否定してはいけないなと自戒した。

 そして過去の自分も認めてあげられた。私は幼い頃から暗い世界観に惹かれてきて、健全で明るいものを好きになれず、なぜこうなんだろうと苦しかった。救いを音楽の中に見つけたけれど、それは親は認めがたい音楽だったので、肩身が狭く、隠れてコソコソ聞いていた(バレていたが)。

 しかしその娘さんを見ていると、惹かれるのが少数派な世界だとしても、それは人の痛みがわかるということじゃないだろうかと思えてきた。人の生きづらさに共感できるのは特別な力であり、彼女の強みなのだ。それが彼女の優しさ、勇敢さにつながっている。そう思うと、若い時の自分にも、あなたが見つけている安らぎは間違いじゃないよと言ってあげたい。

坂本美雨(さかもと・みう)

 ミュージシャン。2015年生まれの長女を育てる。SNSでも娘との暮らしをつづる。

22

なるほど!

119

グッときた

3

もやもや...

17

もっと
知りたい

すくすくボイス

  • ネコ says:

    子育てが終わり随分な年齢になり、振り返ってみると、どれほど自分中心に子育てしていたのか…あの時に戻れるなら謝りたいことだらけ。

    美雨さんの言葉は大好きです。気持が柔らかになります。どうかご自分の感性を信じて娘さんの親であることを楽しんでくださいね。

    ネコ 女性 60代
  • 二児🌈の母ちゃん says:

    我が家は男児二人で、上の子もまだ小1ですが今からこの時代で生きていくことを憂いでいることが多いです。でも、みうさんが言うように親から見てそれは健康的でも建設的でなくても、子供が選んだものを肯定してあげたいなと思いました。

    話は変わりますが、だいぶ前ですが坂本龍一さんのNHKmusicを録画していたものをようやく夫婦で真夜中に鑑賞できました。20年前暮らしていたLondonのクラブで故人の曲が流れるとただただ同じ日本人であることを誇らしく思っていた若しき自分を思い出しました。40代の今聴くと心にとても響き、こんなに素晴らしい曲だったのかとただただ魅入り聴き惚れました。

    ブログのタイトルとは関係ないコメントですみませんでした。美しい雨。素敵なお名前ですね。

    二児🌈の母ちゃん 女性 40代
  • のーやんママ says:

    5歳児母です。私はいつも美雨さんの優しい視線に癒され、自分自身への姿勢にも勇気をもらっています。

    今回のお題は5歳児のスケールはもう少し小さいですが、同じような事で身に染みた事がありました。
    某女児向けアニメを幼稚園のお友達越しに知った娘は自分も知りたくて、私に何度もアピールされました。

    私は親が選別する事も大切だと考え遠ざけていましたが、彼女は自我を持ち小さな社会で生きる人間。知らない事で意固地になりお友達と距離ができてしまっていたようです。
    お友達との関わり方を見ていたある日、もしかしてあのアニメが原因かも?と思い「一緒に見てみよう」と誘いました。それから園での生活が円滑になっていきました。

    私は理解していたつもりでしたが、子供のしたい知りたいを応援するが出来ていなかったなぁと反省しました。

    自分らしく=心が求める事を追いかける

    自分に置き換えると簡単なのに、対子供だと途端に親フィルターがかかってしまうんですよね。
    我が娘もどうなかっていくのかな…
    近くで行く道を見せてくれる存在は貴重ですね。私にとって美雨さんのコラムはそんな存在です。

    のーやんママ 女性 40代
  • ゼロ山 says:

    親から見て『健全的』ではない行為に熱中する、子ども。という書き出しに、グサッと刺さるモノが有りました。

    結局、親も人間で、自身の『好き&嫌い』で物事を判断してしまうところが有り、親は、その個人的な『好き&嫌い』を無自覚に自分の子どもには『神』の如く押し付けているケースが存在しているということですよね。自分自身の価値観も正しいかどうかなんて分からないのに、子どもには教えていかなきゃいけない!親の責任の欠片に気付かせてもらった感じです。

    親も人間だから自分の価値観に同意して貰えなかった時に傷つくとは思うのです。でも子どもが自分で獲得したなにかしらの『思い』があるなら、それは、いくら親でも奪うことは出来ないと思います。だって、それが子どものアイデンティティーになるのだから。

    まだまだ先の事だと予想していた『その変化』は現在10才の息子には、現在進行形で訪れてそうです。穏やかに息子を見守れるとは自分では無いなと思いますが、せめて息子から気持ちを離さず見守りたいなと思います。

    ゼロ山 その他 40代

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