小学校の卒業式、はかまが人気だけど… 「華やかで子どもが喜ぶ」一方で「着付けも費用も大変」「締め付けで体調を崩す」との声も

石川由佳理、藤原啓嗣 (2024年2月28日付 東京新聞朝刊)
 小学校の卒業式で、はかまを着たいという長女の要望に応えてレンタルしたが、高額な費用や当日早朝の着付けに頭を抱えている-。子育て面担当記者の悩みです。すでに卒業式を経験した保護者の話や、式を控える保護者の思い、自治体の対応、専門家の意見を紹介します。

祖父母に晴れ姿 いい思い出に

 愛知県東海市の女性(46)は8年前の長女の卒業式で、はかまをレンタルした。長女ははかま姿の先輩を見て、あこがれを持ったという。女性にも、自分の両親に孫娘の成人式や大学の卒業式の姿を見せてあげられないかもしれないとの思いもあった。「早めに見せられてうれしかったし、両親は孫の姿を見てすごく喜んでいた」。当日は女子の半数がはかまを着用したが、着付けの締め付けがきつかったり、トイレを我慢してしまったりしたのが原因で体調を崩した児童がいたとして翌年から禁止になったという。

 レンタルせずに、リメークで乗り切った人も。名古屋市の女性(51)は2日間夜なべして、次女が七五三の時に着た着物と長じゅばんの袖を伸ばし、和服売り場で安価なはかまを購入。着付けも女性が行った。着物を生かすことができ、「とてもいい思い出として心に残っている」。

トイレに行くのに気を使って…

 別の女性(50)は、7年ほど前の長女の卒業式を前に、何を着るかを親子で話し合った。はかまにはスーツにない華やかさがあるが、締め付けが苦しいと感じる子もいたり、トイレに行くのに気を使ったりすると、長所と短所を伝えた。長女が選んだのはスーツだった。出席者の半数ははかまだったが、体調不良でずっと座ったままの児童も。「スーツにして良かった」と、親子でうなずき合った一方、「周りのお友達との関係、多数派に合わせたい気持ちもあるだろうし、難しい問題」と感じた。

 小学6年の息子がいる別の女性(38)は「中学の制服を新品で買うことすらためらう家計状況」。持続可能な開発目標(SDGs)の観点からも中学の制服で参加するのが望ましいと考えている。「1日しか着ない服にお金を掛けることが難しい家庭はうちだけではないだろう。生活の苦しい家庭のことを思いやれる気持ちが他の親子や地域にあるといい」と理解を求める。

10年ほど前から流行 自宅の出張着付けサービスも

 暮らしに関係する300種類以上の出張訪問サービスを予約できるプラットフォーム「くらしのマーケット」では2017年、出張着付けの予約を開始。運営する「みんなのマーケット」(東京)の担当者は「卒業式シーズンの利用は毎年増えている」と話す。

 着付けサービスを提供する人の中でも、卒業式のはかまに対応することをセールスポイントにする人が多いという。担当者は「サービスの知名度が高まったのもあるが、自宅という比較的落ち着いた環境で着付けしてもらえるのが受けている」と要因を語る。

 小学校の卒業式にはかま姿で臨む傾向は、10年ほど前から強まった。名古屋市教委は2018年に児童と保護者にアンケートを実施。5、6年生の女子の半数近くが、着用したい服装を「和装」と答えた。現在、服装については市全体で取り決めるのではなく、学校ごとの判断に委ねる。東京都千代田区教委なども「決まりは設けていない」という。

 三重県四日市市教委は毎年5月、6年生の保護者に、卒業式にふさわしい服装で臨むよう求める文書を渡している。文書には、着崩れや、早朝からの準備で体調を崩したといった過去の事例を記載している。この結果、はかまを着る児童はほぼいないという。

 東京新聞生活面で「子どもってワケわからん!」を連載する育児雑誌編集者で、長く小学校教員も務める岡崎勝さん(71)は「今の時代、学校がはかまを禁止するのは難しいのではないか。卒業式をどんな場だと考えるか、その上で何を着たいか、親子で話し合うことが重要だ」と話す。