高校中退者の孤立防ごう 広がる学習支援の場
勉強が義務ではない 生き方見つける居場所に
毎週土曜の夜、さいたま市南区のビルの一室で高校の中退者や通信制高校に通う若者らが勉強机に向かう。同NPOが開く「まなび場 いっぽ」だ。彼らの熱心な質問に、学生ボランティアが寄り添う。
勉強の合間に学生らと囲む夕食では、笑いが絶えない。NPO職員の西田真季子さん(37)は「いっぽは、勉強が義務ではない。居場所として過ごすうちに、その人らしい生き方を見つけてほしい」と話す。
利用者は職員と進路を相談し、高校編入や高校卒業程度認定試験を経て大学や専門学校を目指す。いっぽの開設当初から通う男性(18)は「勉強を教えてくれる場所があって助かる。将来は海外に関わる仕事がしたい」と意欲を見せた。
ひきこもってしまうケースへの接触が課題
ただ、中退後に家にひきこもってしまうケースもあり、NPO側から支援を必要としている人に接する機会が乏しいことが課題だ。中退の可能性がある生徒と高校在学中に面会できるのは、校長の理解と家庭の了承が得られた場合に限られている。
西田さんは「中退した時点で把握できるのはごくわずか。情報が途切れた後、社会のどこともつながっていない人を見つけることは難しい」と明かす。
文部科学省は2017年度から、いっぽを含む全国6カ所でモデル事業を展開。委託先にこうした課題の方向性を3年以内に定めるよう求めている。文科省の担当者は「支援の手法を確立させてから全国に広げたい」と話している。
支援団体と自治体との情報共有がカギ 先進地・高知県では…
埼玉県によると、昨年度の県内の公立高校中退者は、1469人で中退率は1.2%。中退を未然に防ごうと取り組む事業はあるが、中退した時点で生徒の情報を「いっぽ」などの支援団体に提供するかどうかは、各学校の判断に委ねている。
一方、支援団体と独自の情報共有に乗り出した自治体もある。高知県は、2010年から県個人情報保護条例の特例として、中退後の進路が決まっていない生徒に限り、本人の同意がなくても個人情報を提供できるようにした。
高知県によると、それまでは、中退時に本人の同意書が必要だったが、年間数件しか集まらなかった。県の担当者は「退学する時は、支援を受けることを前向きにとらえるのは難しい。支援者側から定期的に声掛けできる仕組みが必要」と説明する。
時には本人の意向に反する場合もあるが、支援内容を丁寧に説明して理解を得ているという。年間数件だった支援団体の利用者は、最大48人に増えた。今後は退学時に就職したが、辞めてしまった人へのアプローチを課題とする。
若者の自立支援に詳しい宮本みち子・放送大名誉教授は「中退者の中には高卒認定試験があることすら知らなかったケースもある」と指摘。「支援団体と高校だけでなく、地元の団体同士も連携し、当人に適した支援を選べるような体制が求められる」と話している。