学校が子ども兵を生み出す”洗脳”の場に…「世界最悪の人道危機」イエメンの現状
わが子の右足も、私の右足も、地雷に奪われ
武装勢力と戦う暫定政権の拠点であるマーリブには、各地から避難民や負傷者が押し寄せている。40万人だった人口は280万人に膨れ上がった。難民キャンプは30カ所に上る。
サウジアラビアとトルコの人道支援団体が運営する義肢センターでは、サラー君(7)が義足を交換していた。3年前に父アリさん(39)の運転する車が地雷を踏んだ。義足は、成長に合わせて半年ごとに替える必要がある。「この子の人生はどうなってしまうのか」。同じように右足をなくしたアリさんが嘆いた。
武装組織が学校で「子ども兵」をつくり出す
イスラム教シーア派武装組織は、学校に監督者を置いて「子ども兵」を勧誘し、最前線に送り込んでいる。
「米国とイスラエルの侵略を防ぎ、母と妹を守れるのは君だけ」。2016年1月、サヌア近郊に暮らしていたムハンマド・サイヤード君(15)は、中学校にいる監督者の言葉に「美しい。ジハード(聖戦)に参加するんだ」と奮い立った。
手当たり次第撃った。友人は目の前で死んだ
ある夜、選ばれた15人が集められ、軍事訓練キャンプに連れ出された。家族に伝える間もなく、1カ月間の訓練の後、山岳地方に実戦配置された。
暫定政権軍を急襲する深夜のゲリラ攻撃に参加。「手当たり次第撃ったので、自分が誰かを殺したのか分からない」。しかし、友人が目の前で撃たれて亡くなり、恐ろしくなって逃げ出した。サイヤード君の行方を捜していた家族と合流し、マーリブに避難した。
洗脳できる純粋な年頃を狙って勧誘している
「フーシ派は、まだ洗脳できる純粋な年頃を狙って勧誘している」とフーシ派支配地域に住む数学教師(26)は指摘する。国連によると、内戦で動員された子ども兵は2700人余り。実際はさらに多いとみられ、フーシ派高官はAP通信に、18000人を兵士にしたと明かした。
だが、子ども兵を勧誘するのはフーシ派だけではない。国連は昨年8月、暫定政権軍とフーシ派双方が子ども兵を使用していると批判している。
マーリブ出身のアブドラ・デリジャン君(15)は16年6月、政権軍兵士の父に誘われ、いとこや友人と軍に加入した。
「子どもらしさ」取り戻すためのリハビリ
2カ月で1000サウジリヤル(6万円)の給料は魅力的で、自動小銃を持つと「騎士になった気がした」。しかし、戦場でいとこらが戦死。その後の戦闘で、自分も捕虜として拘束された。フーシ派系テレビで「政権軍は子どもを強制的に兵士にしている」と言わされ、親元に帰った後も、いとこが倒れる場面を繰り返し夢に見て、眠れなくなった。
サイヤード君とデリジャン君は今、地元非政府組織(NGO)が運営する元子ども兵のリハビリ施設で過ごす。45日間の寮生活で、心療内科医らとの面接やスポーツなどを通じて「子どもらしさ」を取り戻し、負の記憶を塗り替える試みだ。2年前の開設以来、321人が修了した。
手厚い支援…政権側の”情報戦”でもある
施設は、暫定政権を支援するサウジアラビア政府の援助によって運営されている。入所する元子ども兵には、750リヤルとおそろいの制服、生活道具一式を配り、保護者にも250リヤルを支給。さらに修了後はiPadが贈られ、家族に食料支援も届けられる。
計1000リヤルはイエメンの警察官の月給とほぼ同じ。こうした破格の支援によって、子どもがフーシ派に対する情報戦の一端を担わされているのも事実だ。