子どものネット利用「平日60分、休日90分まで」 香川県議会の条例案が物議 「エビデンスない」「家庭内の問題」
素案では「中学以下は午後9時、他は10時まで」
香川県議会事務局によると、昨年3月、ネット・ゲーム依存症対策の議員連盟が発足。超党派の全41人が所属するこの議連や、9月に14人でつくった条例の検討委員会で、制定に向けた動きが進んでいた。
条例案の素案は、検討委から指示を受けて議会事務局が作った。ネットを使用する時間については、義務教育修了前の子どもは午後9時まで、それ以外の子どもは同10時までという制限を盛り込んだ。
素案は今月10日に開かれた第5回検討委で示された。しかし、制限にどのような実効性があるのかという意見や、依存症教育や子どもの遊び場の確保などについて盛り込んではどうかという意見が出た。このため、検討委は素案を修正し、あらためて20日の第6回委員会で示して議論することになった。
前のめりの県議会「全国に先駆けて条例を」
オンラインゲームやテレビゲームを巡っては、世界保健機関(WHO)が昨年5月、やり過ぎで日常生活が困難になる「ゲーム障害」を新たな依存症として認定。アルコールやギャンブルなどによる依存症と並んで、治療が必要な疾病となった。
それにしても、なぜ香川県議会が、地方自治体の先頭を切ってネットやゲーム依存対策の条例を制定しようとするのか。香川県議会が昨年12月に国に提出した「eスポーツの活性化に対して慎重な取り組みを求める意見書」は、「本県の子どもたちをはじめ、県民をネット・ゲーム依存症から守るための対策を総合的に推進するため、全国に先駆けて、議員発議による条例の制定を検討している」と記載。いち早くこの問題に対応したい意欲が書かれている。
専門家「一律制限は不適切」「人生の可能性も奪う」
ただ、専門家の意見はさまざまだ。京都大大学院の曽我部真裕教授(情報法)は「ゲーム依存は深刻な問題になりつつあるので、対策をするために条例を作ることは何の問題もない」とする一方、「そもそも何分以上やれば有害なのかや、依存のリスクが上がるのかについてのエビデンス(科学的根拠)がなく、個々の家庭や子どもの状況が異なるのに、一律に時間を制限するのは不適切だ」と指摘する。
香川大の三原麗珠(れいじゅ)教授(社会選択理論)は「県や国が口出しすべき問題か問われるべきだ」として、「純粋に家庭内の問題だと思う」と話す。
大阪大の井出草平非常勤講師(社会学・精神医学)は「今の子どもたちにとって、ネットにつながるスマートフォンはLINE(ライン)で友人関係を保つためのものであり、情報を集めるツール(道具)でもある。その使用に制限をかけることは人生の可能性も奪っていくことになる」と指摘。「条例をつくっても、得てして制限を守らない子どもが依存症になっているはずで、問題のない大多数の子どもが利用を制限されて、依存になっている子どもは制限を無視してやり続けるのではないか」と疑問を呈する。