車内に子どもを放置しないで 熱中症死、繰り返さない
エアコンなしでは1、2分で噴き出す汗
「あの時もっと頻繁にしっかり車内を見ていたら」。店長の椎野欣也さん(45)は昨夏が忘れられない。
店の駐車場に止めた乗用車に、約2時間放置された1歳11カ月の男児が熱中症で死亡したのは昨年7月8日昼だった。当時は快晴で最高気温は32度。父親は店内でパチンコをしていた。
炎天下の車内はどれほどなのか。椎野さんは事件直後の30度を超す真夏日に、店の駐車場に自分の車を置き、同じ状況を再現した。エアコンを切ると1、2分で汗が噴き出す。15分もすると息が苦しい。車外へ飛び出した。「小さい子なら、どんなにつらかっただろう」
もう誰も死なせない
全国に300店舗以上を展開するマルハンでは、事件以前から各店で注意喚起や巡回をしていたが、事件を受けて店ごとにまちまちだった巡回を1時間ごとに統一し、年間を通して実施することにした。中が見えにくい車は懐中電灯を使って照らし、カーテンで車内が見えない場合も店内放送で客を呼び出して確認を徹底した。万一の場合に救出できるようスタッフは車の窓ガラスを割る器具も持つ。
昨年8月から今年7月末までの1年間で、全国の店舗でスタッフが巡回中に車内に18歳未満の子どもが1人で残されているのを発見したのは78件。うち6歳未満は34件で、車内のエアコンが停止していたケースも14件あった。
猛烈な暑さの今年8月初め、中之郷店では「NO! 子どもの車内放置撲滅」と大きく書かれた黄色いTシャツを着たスタッフが毎時間、駐車場の車1台1台をのぞき込んでいた。店内には注意を呼び掛けるアナウンスも頻繁に流れる。4カ所の入り口全てに貼ったポスターには「絶対にやめて 子どもの車内放置」という中国語、ポルトガル語、タガログ語も並ぶ。
「啓発で救える命があるのなら、できる限りのことを全てやりたいんです。もう誰も死なせない」。その思いで椎野さんは自らも巡回に出続ける。
実験…15分放置で危険レベルに
日本自動車連盟(JAF)が2012年に行った実験によると、外の気温が35度で窓を閉め切った黒色ミニバンの車内温度は30分後に45度、1時間後には50度に達した。熱中症の危険度を示す熱中症指数は15分で5段階のうち最も危険なレベルに達した。窓を開けた状態やフロントガラスを覆うサンシェードを使った場合でも、約30分で40度以上になった。
JAFによると、昨年8月の1カ月間で、子どもが車内に閉じ込められ、解錠のために出動したのは167件。親が子どもとキーを車内に残したまま車を離れ、子どもが誤ってロックを操作して外から解錠できなくなったケースが最も多かった。