「園児にマスク」厚労省通知に疑問の声 小児科医「平気で鼻くそを…現場分かっていない」 保育士も負担増
可能な範囲 実質「2歳以上は推奨」
「つい先日、『2歳以上からできれば着けてくれ』と保育園から連絡がきた」。1歳の長女と3歳の長男を、東京都新宿区の保育園に預けている会社員の母親(35)は話す。同園ではクラスターが発生しており、その対応として、厚労省に先立つ形での連絡だったという。母親は今、長男にマスクを着けてもらっている。「本人はかっこいいと気に入ったようだが、夕方迎えに行くと、マスクをしていない子も多い。意味がないし、子どもにこれ以上、制約を課すのはかわいそう」
推奨通知は、全国知事会の平井伸治会長(鳥取県知事)が3日、後藤茂之厚労相との意見交換で、2歳以上を対象に国が促すよう要請したことがきっかけ。翌日の新型コロナ対策分科会(尾身茂会長)では、この要請を反映した提言案が示されたが、小児科医の専門家から異論が噴出した。
後藤厚労相は8日の記者会見で「発達状況等からマスクの着用が無理なく可能と判断される子どもは、可能な範囲で子どもや保護者の意図に反して無理強いすることのないよう留意して、マスクの着用を推奨する」と発言。「2歳未満児は推奨しない」とも語った。同省は同日、全国の自治体に同じ内容の通知を発出。「2歳以上」という明言はなかったが、全体としては、「2歳以上は推奨」と聞こえてしまう。
厚労省の担当者に、この推奨はいつまで続くのかを聞くと、「(感染力の強い)オミクロン株の特性をふまえた感染症対策なので、オミクロン株がはやっている間だ」と説明した。
なぜRSウイルスでは言わなかった?
東京都江東区の認可保育園の職員は「2歳児からのマスク着用は早すぎる」と話す。同園はこれまで園児にマスクを着用させてこなかったが、感染拡大を受け、激しい運動時や食事、お昼寝時を除き、3歳以上には着けてもらうようになった。2歳児については保護者と相談して決めているという。職員は「表情がくみ取りづらくなるし、正しい着用だってまだ難しい」とした上で、「自己管理できる年齢ではないので、マスクをきちんと着けられているか目配りが必要になる」と、さらなる保育士の負担増も懸念した。
では、小児医療の専門家からみてどうか。大阪府富田林市医師会感染対策担当理事を務める小児科医の藤岡雅司氏は「未就学児に一般的な感染対策を要求しても意味がない。子どもは、平気で鼻くそをぬりつけたりしている。そんな子にマスクをしなさいといっても無理」と語る。「子どもが感染したら両親は自動的に濃厚接触者になり、両方が仕事に行けなくなる。それだったら、子どもを保育所に預けるのをやめ、夫婦が別々に休みを取って面倒を見る方が良いのでは」と話す。
藤岡氏は、乳幼児が感染すると重症化する恐れがあるRSウイルス感染症が昨夏に大流行した際と、今回の対応の違いにも首をかしげる。「RSウイルスも気道感染症で、ワクチンはない。流行時に国は『マスクをしてください』と言ったか。ダブルスタンダードではないか」
今回の通知に関しては、子どもや保護者に無理強いしないことも記載されたので「玉虫色に落ち着いた」とした上で、「子どもにマスクをしろというのは、現場のことを分かっていない。できないことをできるかのように言うこと自体が問題だ」と強調した。