「異次元の少子化対策」たたき台、保育士の配置基準は変えず 現場の反応「この程度では変わらない」 財源あいまい、時期は未定…
30人から25人へ「運営費の増額」
政府は3月31日、岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」のたたき台を発表した。子育て施策の焦点の一つだった保育士の配置基準は変えず、保育士1人が受け持てる1歳児を6人から5人、4、5歳児は30人から25人にできるように運営費を増額する方針を示した。配置基準を変えると、保育士不足の現状では人員を確保できない保育所がでる可能性があり、基準の改定は見送った。保育現場からは「この程度では現状と変わらない」といった声も上がる。
保育士の配置基準とは
保育士1人が受け持てる子の数を定めたもので、国が1948年に制定。保育所に支給される運営費のうち、人件費にはこの基準も反映される。1998年に0歳児の基準を「保育士1人で6人」から「3人」にしてから改定がない。
「20人以下に保育士1人」にしてほしい
認可保育所「船堀中央保育園」(東京都江戸川区)を平日の午後5時ごろ訪ねると、4、5歳児20人ほどがブロック遊びやお絵描きをして保護者の迎えを待っていた。保育士は2人いる。でも「みてみてー」と呼ぶ園児に1人が向かい、お迎えの保護者にもう1人が対応すれば余裕はない。
「基準を4、5歳児20人以下で保育士1人ぐらいに変えなければ、現場の負担感は減らない」。この保育園を運営する社会福祉法人「東京児童協会」の菊地幹さん(37)は話す。
都市部の自治体は独自に運営費を加算
4、5歳児に対する国の配置基準は75年間も据え置かれるなど、人手が足りない現場のニーズを反映してこなかった。このため都内など都市部を中心に、自治体は独自の施策で運営費を加算。「自治体の補助金などを活用し、国基準を上回る保育士を置いている園が多い」と菊地さん。
1歳児も江戸川区は「1歳児5人に保育士1人」の基準で園を運営するよう求め、独自に運営費を加算。今回、政府が示した改善後の水準を既に満たしている。菊地さんは「今回の改善は第一歩。基準の改定や保育士の労働環境の向上につなげてほしい」と求めた。(奥野斐)
識者の声「さらに質が下がる恐れ」
◇鶴見大の天野珠路教授(保育学)の話 保育は公的福祉であり、しっかり法律にのっとって配置基準を見直さなければ、さらに保育の質が下がる恐れがある。
「集中取組期間」と言いながら…制度も財源も説明なし
児童手当は所得制限を撤廃
たたき台は「試案」の位置づけ。児童手当については、現金給付が諸外国に比べて手薄だとして、所得制限を撤廃するとした。現在は中学生までの支給期間を高校卒業まで3年間延長することも掲げた。さらに多子世帯の増額方針も打ち出したが、財源のめどが立っていないため、具体的な加算額は示していない。
若い世代が希望に沿って結婚、出産できる環境整備の一環で、男女とも約1カ月間に限って育休給付金を手取り額十割相当に引き上げたり、自営業者やフリーランスを対象にした育児期間中の国民年金保険料免除制度を創設したりすることも盛り込んだ。しかし、既にある仕組みの手直しになるとみられ、少子化の傾向を反転させる効果は見通せない。
「6兆円が必要」との見方も
自民党から要望があった出産費用の保険適用や学校給食費の無償化もメニューに加えたが、「検討」や「課題の整理」にとどめている。政府関係者は、2026年度までの実現に懐疑的だ。
「加速化プラン」の全ての施策を始めるだけでも、新たに必要となる予算は「国と地方で6兆円」(与党幹部)という見方がある。政府は近く、首相の下に新たな会議体を設置し、施策の具体化や財源の確保策の検討に着手するが、負担増の議論になれば、国民の反発も予想される。(井上峻輔)
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