親の収入で「子どもの体験格差」が拡大 習い事に自然体験、文化活動まで 物価高で深刻化…対策が必要です
生活に余裕がなく、習い事ができない
8月下旬、東京都内の会議室。中学1年~高校3年の女子生徒17人がノートパソコンに向き合う。プログラミング技術を学ぶ3日間のITキャンプ。参加者は画像編集ツールを使って自分を紹介するホームページを作り、1人ずつ成果を発表した。講師は、子ども向けのプログラミング教室を運営するアントレキッズ(東京)の太田可奈さん(41)が務めた。
NPO法人キッズドア(同)と、半導体開発大手のクアルコムジャパン合同会社(同)が、ひとり親家庭などの女子中高生を対象に企画した。
将来はITデザイナーに興味があるという、愛知県の高校3年の女子生徒は「自分で考えてプログラミングしていくので想像力が大切だと感じた」と笑顔。40代の母は「下に弟妹が3人いて、生活に余裕がなく習い事をさせてあげられない。将来に役立つ貴重な機会になった」と話した。キッズドアの渡辺由美子理事長(59)は「学習支援だけでなく体験の機会を提供することで、多様な学びや自信につながる」と語る。
世帯収入で調査 格差は「2.6倍」に
子どもにとって体験が重要な意味を持つことは、国の調査でも示されている。2020年度の文部科学省の委託調査では、キャンプや登山などの「自然」、ボランティアや職業体験などの「社会」、博物館や演劇鑑賞などの「文化的」の各体験の影響を分析。親の収入や学歴が高い方が多様な体験活動をしていること、小学生の頃の体験がその後の学習意欲を高めるといった効果があるとした。
ただ、近年のコロナ禍や物価高騰が暗い影を落とす。公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(CFC、東京)は2022年10月、小学生の子を持つ全国の保護者約2100人にインターネット調査を実施。直近1年間で 学校外の体験活動をしていない子どもは、世帯年収300万円未満の場合は3人に1人と、600万円以上の2.6倍に。さらに300万円未満の半数超が、物価高騰で体験の機会が「減った」「今後減る可能性がある」と答えた。
「ハロカル基金」3年で1000人支援へ
CFCの今井悠介代表(37)は「親の経済力だけでなく、ひとり親で時間や精神的な余裕のなさ、体験活動が重要という認識不足などが、格差を生んでいる」と説明。ひとり親家庭などの子どもに体験の機会を提供する「ハロカル基金」を2022年に設立した。2025年度までの3年間で延べ1000人の支援を目指す。
東京都立大子ども・若者貧困研究センター長で、同大人文社会学部の阿部彩教授は、NPOや企業の支援の広がりは評価しつつ、情報不足で支援につながらないケースがあると指摘。「学校教育で体験活動を充実させるなど、さらなる取り組みが必要だ」と訴えた。