日本中から批判された「留守番は虐待」条例案を撤回 埼玉の自民県議団「説明不足だった」 知事への意見1007件中1005件が反対
内容は「瑕疵はなかった」と正当化
田村団長は、会見で声明文を配布し「私たちの言葉足らずで、県民のみなさまはもとより全国的に不安と心配の声が広がり、多くの県民・団体等よりさまざまな意見を頂戴した」とし、「趣旨が十分理解された上で社会全体で子どもの安全を守る機運につながることが重要」なため、取り下げると説明した。
改正案では、小学3年生以下の子どもを家などに放置することは虐待に当たるとして禁止。「子どもの生命・身体に危険がなく、養護者がすぐに駆けつけられる」状況以外は放置に当たるとしていた。
田村団長は内容について「瑕疵はなかった」と正当化した上で、登下校に防犯ブザーを持たせるなど各家庭で安全に配慮していれば放置にならず「心配の声のほとんどは虐待に当たらない」と従来と異なる見解を示した。既に条例で規定する「安全配慮義務」が果たされていれば虐待に当たらないとした。これまで説明しなかったのは「安全配慮義務は大前提で当たり前すぎた」と釈明。改正案を再提出するかどうかは「ゼロベースで全く何も考えていない」と答えた。
改正案を巡っては、埼玉県民の強い反発を招き、子育て中の保護者などからは「禁止対象が広すぎて暮らしが成り立たない」「生活実態から懸け離れている」「県民の意見を聞いたのか」と批判の声が相次ぎ、複数の署名活動も始まっていた。
埼玉県知事宛てには1007件の意見が寄せられ、うち1005件が反対だった。
<記者の視点>自民の県議団58人、女性は3人だけ 育児の実態からずれた感覚
自民党県議団が提案した改正案は4日に内容が明らかになり、他会派や県民の懸念をすくい上げることなく拙速に進めようとした結果、取り下げに追い込まれた。県民から「子育て世代の実態から懸け離れている」とノーを突き付けられた形だ。
取り下げの理由について田村琢実団長は「説明不足」としたが、内容や手続きに「瑕疵はなかった」と問題ではないような発言をした。説明不足よりも内容に問題があったからこそ、これほどの反発が巻き起こったのではないか。保護者らの感覚との乖離(かいり)は深刻といえる。
改正案は県議団で6月にプロジェクトチームを設置し議論した上でまとめたものだという。県議団58人のうち女性はわずか3人。田村団長は、男女比は影響していないとの見方を示したが、育児を女性が中心となって担っていることの多い現状では、当事者性を欠いているのは否めない。
外部の多様な意見を聞く姿勢にも乏しかった。県議団は、パブリックコメントを団のホームページ上で1カ月間実施し、各種団体にも意見を求める文書を送付し、「反対は少なかった」とするが、気付いた県民がどれだけいたのか。
本来、県議会で議論すべきは、虐待が起きないようにするために、保護者をどう支援していくかだろう。保護者に義務を課す前に、県議としての役割を果たすべきだ。(飯塚大輝)
埼玉県虐待禁止条例の改正案
2018年施行の条例に、子どもの放置の禁止を加える案。自民党県議団が来年4月施行を目指し、今月4日に提案した。小学3年生以下の子どもを家などに残したまま保護者が外出することを虐待として禁じ、4~6年生についても努力義務とする。放置された子どもを見つけた県民に通報を義務付け、県には待機児童対策を求めた。罰則はなく、条文に何が虐待に当たるか具体例は明記されていないが、本会議の質疑などで自民は「子どもだけで公園で遊ぶ」「高校生のきょうだいに子どもを預ける」ことも放置だと説明していた。
※条例の改正案をめぐる自民党県議団の会見詳報を東京新聞 TOKYO Webで伝えています。
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