性犯罪歴チェック「日本版DBS法」2026年度にも施行、だが運用面は曖昧なまま 対象職種は?人材確保への配慮は?
「認定制度」参加しやすい仕組みに
「ただいまー」。7月の平日午後、川崎市中原区の民間学童保育に小学校の授業を終えた子どもたちが次々と集まり始めた。「宿題やるー」「積み木しよう」。思い思いに動く子どもを、職員らが死角のない場所にさりげなく誘導し、目前のグループを見渡せる場所から複数人で見守る。大人と子どもが長時間で1対1にならないよう配慮しているという。
運営する東急キッズベースキャンプ(川崎市)は、子どもの性被害防止のため、独自の取り組みに力を入れてきた。年2回、現場で疑いがある行動をする人を把握する定期スクリーニングも実施する。法施行で、学童保育を運営する民間事業者も、犯歴確認が必要になる「認定制度」への参加対象となる。島根太郎社長は法整備を歓迎しつつ「認定制度に参加しようという企業がどんどん増えなければ意味がない。事業者にとって参加しやすい仕組みが必要だ」と訴える。
「早期に把握するための措置」とは?
事業者側が懸念するのは採用面への影響だ。採用予定者の犯歴確認にある程度の時間を要する見込みで、実際の就業までに人材が他業種に流れてしまうとの不安がある。人手不足に悩む事業者も多く、認定制度への参加に二の足を踏みかねない。島根社長は、人材確保にも配慮し、確認結果を待たずに従業員の「仮採用」ができる運用を求める。
こうした点を含め、「日本版DBS」の具体的な運用は決まっていない点が多い。例えば、犯歴確認が義務化される学校や保育所で、教員や保育士だけでなく事務職員や送迎バスの運転手なども確認対象とするかは今後の検討となる。政府は、子どもとの関係で「支配性」「継続性」「閉鎖性」を満たす業務かどうかを基準にするとしている。
対象事業者は、子どもへの性暴力が行われる「おそれ」がないかどうか、早期に把握するための措置を講じると規定されたが、具体的な内容は曖昧なままだ。
膨大な業務 システム構築も課題
新たに発生する膨大な業務に政府がどう対応するかも課題だ。こども家庭庁には今後、事業者の認定業務と犯歴照会の2つの業務が加わる。同庁によると、犯歴の要確認対象者は学校設置者等で少なくとも230万人。認定制の対象学習塾が約40万人、放課後児童クラブが約20万人、認可外保育施設が約10万人となる。
政府は、法施行後の3年間で対象施設の従事者の犯歴確認を行うとしている。国会審議で、加藤鮎子こども政策担当相は「システム構築や業務委託の範囲、監督のあり方を検討する」と述べたが、外部への委託が難しい業務も多く、相応の体制づくりは急務だ。
「日本版DBS」創設法とは
6月19日の参院本会議で全会一致により可決・成立。英国の政府系機関「前歴開示・前歴者就業制限機構」をモデルに、子どもを性被害から守るための新制度を設ける。性犯罪歴がある人は刑終了から最長20年採用されないなど事実上の就業制限になることから、「裁判所が事実認定した前科を確認の対象にする」(政府)として、不起訴事案や行政処分は含めていない。国会は「対象事業者の拡大」「加害者の治療的支援強化」など19項目に上る「付帯決議」を採択した。