〈パパイヤ鈴木さんの子育て日記〉3・忘れられないできごと
先日、ある小学校の「二分の一成人式」に招かれた。10歳の子どもたちが将来の夢を発表した。サッカー選手になりたい子、ダンサーになりたい子もいた。「私の先生のような先生になりたい」という子がいた。何人かの先生が泣いていた。一生懸命考えた作文を読む子どもたちを見て、胸が熱くなった。彼らはもう立派な大人だった。
「学校に行きたくない」
今年、娘の彩花(さやか)が10歳になる。僕には忘れられないできごとがある。2年前のある朝、娘が「おなかが痛いから学校休む」と言った。医者に連れて行こうとする僕の横で妻が言った。「本当のこと言って」。娘は「学校に行きたくない」と言った。理由はいじめらしい。娘はその小さな胸に張り裂けそうな思いを秘めていた。
前夜に気づかなかった自分が腹立たしい。しかし、妻は違った。娘の小さなサインに気づいていた。「徹底的に話そう」と、娘に立ち向かった。泣きじゃくりながら必死に話す娘と、受け止める母親。僕は一体何をしているのだろう。こんな時に父親は何をすればいいのだろうか。妻の声でわれにかえった。
「今日学校に行けなかったら、一生行けないよ!」「さやちゃん、その子たちに負けるんだよ!」
「ママが全部勉強教えてあげる」
しかし、無理やり行かせるわけではないようだ。「本当に行きたくないなら学校やめてもいいよ。ママが全部勉強教えてあげる」。素晴らしい母親だ。しばらくうつむいていた娘が僕に聞いた。「パパはお仕事行きたくないときある?」
娘の目は真っ赤に腫れていた。こんなに悲しそうな顔は初めてだった。僕は今まで何をしていたんだ? 黙っている僕の横で妻が言った。「パパだってそういう時あるんだよ。でもパパがお仕事やめちゃったら、さやちゃんたち困るでしょ?」
しばらく考えた娘は僕たちに言った。
「学校行ってくる。もしいじめられたら『やめてよ!』って言えばいいだけだもんね。子どもは学校に行くのが仕事なんだから」。以前、妻が子どもたちにそう言ったらしい。娘の顔は、別人のようにさわやかだった。
その日から、娘が学校を休んだことはない。子どもの小さなサインに気づく父親にならなければ。僕らは子育てを休むわけにはいかないのだから。(振付師)