漫画家・安藤正基さん 「八十亀ちゃんかんさつにっき」の源泉は名古屋愛と家族愛
祖母のこてこて名古屋弁をモデルに
「八十亀(やとがめ)ちゃんかんさつにっき」のメインキャラクター、八十亀最中(もなか)がしゃべっている名古屋弁は、父方の祖母のなまりを参考にしています。既に亡くなっていますが、こてこての名古屋人でした。幼い頃、家に遊びに行くと、何を言っているか半分ぐらい分からなかった。「何言っとりゃあすか」とか、とても早口でしゃべっていたので。
ただ、そのまま描くと、本当におばあちゃん言葉なので、表現は多少アレンジしています。「みゃあ」や「にゃあ」にしたり。「本来の名古屋弁と違う」と指摘されることもありますが、女子高校生という設定を踏まえ、現代風にかわいらしくしています。
家族みんなでホタル観賞した思い出
その祖母の影響か、父のしゃべりもだいぶなまっています。昨日のことを「きんのぅ」という感じ。母は愛知県一宮市出身ですが、学生時代は名古屋へ通学していたので名古屋弁が出ます。作中で各地の方言をしゃべるキャラクターを登場させているため、私自身、方言が混ざったしゃべりになる時もありますが、実家へ帰れば、すぐに名古屋弁に整います。こんな漫画を描いているせいか、以前よりなまりが強まった気がします。父よりなまるのも時間の問題かもしれません。
小学生ぐらいの頃は、家族でよく車で遠出していました。朝起きたらディズニーランドに着いていたことも。思い出深いのは、ホタル観賞ですね。真っ暗な山だか森だかにいろいろ連れていかれ、たくさんのホタルを見ました。作品の中で名古屋城のホタルを描いたエピソードは、この体験が下地になっています。両親と3つ上の姉は写真を撮るのも好き。ちゃんとしたカメラを各自で持っています。持っていない僕も「八十亀ちゃん」の舞台を写真部に設定しています。既刊の4分の3は実家で描いたので、随所に家族の影響も受けています。
漫画家への夢 理解してくれた両親
両親は若い頃、絵やデザインに関する仕事を夢見て、それぞれ親に止められたそうです。だからなのか、僕が漫画家を目指すことには、ずっと理解を示してくれていました。新人賞をもらった後、なかなか芽が出ず、1年間フリーターもしました。だいぶ心配させたと思うので、作品が人気になって良かったです。
どの年代も親しみやすい地元ネタの4こま漫画なので、家族が周囲に薦めやすいのも結果的に良かった点です。母方の祖父もデイサービスで僕の作品の話をしているようです。うちの家族を思い浮かべつつの個人的な考えですが、名古屋人って「名古屋は何もないよ」と謙遜しながらも、周囲からそう言われると「そうじゃない」と言いがち。実はちょっと自慢したい、褒められたい。今後もそんな地元愛を描いていきたいです。
安藤正基(あんどう・まさき)
1992年、愛知県一宮市出身。名古屋造形大在学中の19歳の時、集英社の漫画家発掘企画で入選。2016年から一迅社の月刊コミックレックスで、名古屋弁の女子高校生らが東海地方の習俗を紹介する4こま漫画「八十亀ちゃんかんさつにっき」を連載中。既刊9巻。2019年にアニメ化もされた。
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