<記者の視点>児童手当の一部停止は子育て支援拡充に逆行している

川田篤志 (2021年2月10日付 東京新聞朝刊)
 政府は2日、待機児童解消の予算確保のためとして、一部の高所得世帯の児童手当を廃止する関連法案を閣議決定した。成立すれば、2022年10月から夫婦どちらかの年収が1200万円以上の場合、支給が打ち切られる。政府が「子どもは社会の宝」として、手当を拡充してきた取り組みに逆行するもので、子育て支援の「公助」が縮小され、菅義偉首相が重視する「自助」に軸足を移す転換点になることを心配する。

政治部の川田篤志記者

成立当時は「多子世帯の貧困対策」

 児童手当は現在、中学生以下の子どもがいる世帯に1人当たり月1万~1万5千円を支給。一定の年収以上の世帯は1人当たり月5千円に減額しているが、対象は全ての世帯。支給対象の子どもは約1600万人に及ぶ。

 歴史をひもとくと、児童手当法が成立した1971年当時は、多子世帯が貧困に陥らないようにするのが主な目的で、義務教育修了前の第3子以降が対象だった。1990年代に少子化の問題が深刻化し、支給対象を第一子まで拡大するなど制度改正が続いた。

所得制限で「公助より自助」鮮明に

 2009年には民主党政権が誕生して「社会全体で子どもを育てる」との理念に基づき、一律に子ども1人当たり1万3千円の「子ども手当」を創設。だが、民主党政権の迷走と求心力低下もあり、2011年夏に民主、自民、公明の三党合意で子ども手当の廃止を決定。児童手当を復活させ、全世帯への給付は維持しつつも、一定の所得を上回る世帯は減額することになった。

 自民党は三党合意を受けた声明で「所得制限を設けることで第一義的には子どもは家庭が育て、足らざる部分を社会がサポートする党の主張が実現した」と指摘。公助より自助を重視する姿勢は、菅政権にも引き継がれ、子ども手当に由来する高所得世帯の給付の廃止につながった。

「親の所得で子どもを分断する政策」

 「親の所得で子どもを差別し、分断する政策で許せない」。日本大学の末冨芳(かおり)教授(教育行政学)は東京新聞の取材に怒りを隠さない。民主党政権が導入した高校授業料の無償化も、安倍政権が2014年に世帯年収910万円以上の所得制限を設けた。「子どもが受けられる支援を親の所得で切り捨てて良いのか」と対応を疑問視する。

 対象者を限定することで、もらえない世帯は制度への不満を募らせる可能性が高い。少子化対策の観点からも、子育て関連予算を底上げする必要があるのに、中途半端な線引きが国民を分断し、子育て支援策に幅広い賛同を得る上で障害になりかねない。

 児童手当の一部廃止で約61万人の子どもが対象外となるが、不支給の対象がさらに拡大する恐れもある。政府方針には所得制限の判定基準で、今回見送られた「世帯合算」への変更を「引き続き検討する」と明記された。長引くコロナ禍で子育て世帯に将来不安が広がる中、小手先の予算の付け替えではなく、支援策の抜本的な拡充こそが急がれる。