出産一時金の増額は「次世代への投資」東大・山口慎太郎教授に聞く

(2020年12月4日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる
 菅義偉首相が不妊治療の保険適用拡大を看板政策に掲げるなど、妊娠や出産にかかる経済的な負担を軽減する動きが政府・与党で加速している。目玉の一つが出産の際、妊婦に給付される「出産育児一時金」の増額だ。結婚、出産、子育てを経済学的に研究する東京大大学院の山口慎太郎教授は「出産費用支援は次世代への投資。日本は子育て支援の支出を増額する必要がある」と話す。
 
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山口慎太郎教授

胎児期や乳幼児期の経済状態、生涯に影響

 -出産育児一時金を増額する意義は。

 「胎児期や乳幼児期の親の経済状態は、子どもの生涯に大きな影響を及ぼすことがさまざまな研究から分かっている。妊娠・出産期の支援は次世代への投資と位置付けることができる。少子化対策に加え、子どもの貧困対策にもなる」

出産育児一時金

 現在は一律42万円を支給。実際に医療機関へ支払う出産費用は、都市部を中心に値上がりを続け、妊婦の持ち出しが20万円を超える地域もある。自民党では野田聖子幹事長代行らが「出産費用等の負担軽減を進める議員連盟」を設立し、2021年度からの増額を目指して活動している。

 -なぜ子どもの貧困対策になるのか。

 「例えば、胎児がお母さんのおなかの中で栄養が取れなかったり健康上の問題を抱えたりすると、その影響は出生時の低体重という形で現れる。胎児から乳幼児期にかけての経済環境や過ごし方が、学童期の知能や学力、情緒安定性に大きな影響を及ぼす。成人後の健康状態にも影響が続き、所得水準をも左右しかねない」

児童手当や保育所整備などが出生率アップ

 -出産育児一時金は一律支給で、費用が高い都市部では持ち出しが生じるなど地域格差もある。

 「日本はあらゆる場面で地域格差がある。社会保障の給付で地域性を考慮するのは必要だとは思うが、損得の議論にならないようにしたい。どの地域でも出産で持ち出しはない形が理想的だろう」

 -一時金増額はどれほど少子化対策に有効か。

 「日本の少子化はもはや単体の政策で効くような状況ではない。個々の政策ではなく、少子化対策のパッケージとして捉え、経済的な負担を取り除く必要がある。児童手当や保育所の整備を含む支援策が、合計特殊出生率を上げたとする実証研究は世界中にある」

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世界的に見ても少子化対策にかけるお金が貧弱

 -日本の少子化対策は十分ではないと。

 「日本は世界的に見ても少子化対策にかけるお金が貧弱。社会保障関係支出のうち、子育て支援などに使われる『家族関係社会支出』の国内総生産(GDP)に対する割合は、経済協力開発機構(OECD)加盟国でトップクラスの国からすると半分以下のレベル。まだ増やす余地がある。全体の家族関係社会支出の規模が増えたときに、やっと出生率が(上昇に)動くのだと思う」

 

 -高齢層など他の世代の理解は得られるか。

 「子どもに使ったお金は消えてなくなってしまうものではない。生まれてきた子がよりよい人生を送るための手助けをするだけでなく、将来健康な大人になれば、社会保障の支出削減や税収増といった形で費用の一部が返ってくる。国の50年後、100年後を見据えると、子育て支援にお金を使う事はむしろ賢い使い方だと思う」

山口慎太郎(やまぐち・しんたろう) 

1976年生まれ。米ウィスコンシン大博士課程修了。東京大大学院経済学研究科教授。専門は労働経済学、家族の経済学。近著に家族や育児を巡る俗説をデータで分析した「『家族の幸せ』の経済学」(光文社)。

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