止まらない少子化「多様性を認める社会でないことの表れ」 安倍政権の対策は実効性に疑問 内閣官房参与・吉村泰典さんインタビュー

柚木まり (2020年9月8日付 東京新聞朝刊)
 安倍晋三首相が「国難」に掲げた少子化問題について、内閣官房参与として安倍政権に助言をしてきた産婦人科医の吉村泰典氏が、東京新聞の取材に応じた。吉村氏は、安倍政権による対策について「幼児教育無償化など制度は変えたものの、いまだ有効な対策になっているとは言えない」と実効性を疑問視。その理由について「多様性を認める社会へと意識を変えられなかったからだ」と指摘した。 

図解 出生数と合計特殊出生率の推移

昨年の出生数は過去最少「歴代首相の中では最も取り組んだが…」 

 7年8カ月に及んだ安倍政権の下、出生数は毎年減り続け、2019年は過去最少を記録。女性が生涯で産む子どもの平均数「合計特殊出生率」は1.36で、少子化に歯止めがかからない。吉村氏は、安倍首相について「歴代首相の中では最も少子化対策に取り組んだと思うが、道半ばだった」と指摘した。

 安倍政権は、消費増税分を幼児教育無償化などに充てた。子どもがほしい人の希望がかなった場合の「希望出生率」という言葉を用いて、1.8を目指す考えを示した。だが、実際の合計特殊出生率との差は大きい。吉村氏は「政策は間違っていなかったし、目標を掲げたことも良かったが、若い人たちに理解してもらえていない」と分析した。

婚外子の割合 欧米では4割超の国もあるが、日本はわずか2%

 その理由を「子どもを産み育てたいという希望は、婚姻にかかわらずかなえられるべきだ。多様性を認める社会ではないことが出生率に表れている」と分析。厚生労働省によると、日本で法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた「婚外子」の割合は約2%。欧米では4割を超える国も多く、日本は圧倒的に低い。

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安倍政権の少子化対策に関して「多様性を認める社会へと意識を変えられなかった」と語る吉村泰典氏=東京都千代田区

 吉村氏は首相に対し、婚外子の割合が高い欧米諸国の状況など、多様化する家族形態について説明したこともある。保守層の支持を基盤とする首相は、夫婦別姓にも慎重な立場。自民党内にも性的少数者(LGBTQ)への配慮を欠く発言をはじめ、伝統的な家族制度を重視する傾向が強い。「婚姻制度についても、もう少し考えてほしい」と、多様な家族形態について議論を進めるよう求める。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響については「経済的な理由で、子どもをつくらない選択をする人が増えると思う。少子化に追い打ちをかけるのではないか」と懸念した。

 内閣官房参与は、専門知識を生かし、首相の政策決定に助言する非常勤の国家公務員で、現在10人。

少子化は若い世代のレジスタンス 結婚せず産みたい人、性的少数者などの「育てたい」をかなえるべきだ 

 安倍政権の少子化対策について、内閣官房参与の吉村泰典氏が語った主な内容は次の通り。 

「86万ショック」国家存続の危機

―2019年の出生数が過去最少を記録した。

 「前年比で5万人以上減り、早ければ来年にも80万人を切るかもしれない。政府は『86万ショック』と言うが、国家存続の危機、非常に深刻な問題だ」

―安倍政権は少子化を「国難」とした。

 「安倍晋三首相は戦後の歴代首相の中では、最も少子化対策に取り組んだと思うが、道半ばだ。保育園の待機児童対策や幼児教育無償化などは、国の制度を変えたが、いまだ有効な対策になっているとは言えない。多様性を認める社会へと意識を変えられなかったからだ」

―首相は「希望出生率1.8の実現」を掲げた。

 「希望出生率は、子どもがほしい人の希望がかなった場合の数字として、安倍政権が広めた言葉。政策は間違っていなかったし、目標を掲げたことも良かったが、若い人たちに理解してもらえていない。少子化は、産みたくても産める環境ができていない社会に対する若い世代のレジスタンス(抵抗)とも言える」

「伝統的な家族制度」を重視した?

―2019年の合計特殊出生率1.36との差が大きい。

 「日本で婚外子は全体の2%にすぎず、根源的な問題として婚姻関係になければ子どもが産めない状況がある。望んで結婚せず子どもを産みたい人や、事実婚や性的少数者(LGBTQ)のカップルらの子どもを産んで、育てたいという希望は、婚姻にかかわらずかなえられるべきだ。多様性を認める社会ではないことが出生率に表れている」

―首相は、伝統的な家族制度を重視する保守層に支持を受けており、積極的に取り組まなかったのでは。

 「それは言えるかもしれない。人口減少が進む今の日本で、出生数が増える要素が見当たらない。産みたい人が産める社会になるよう、婚姻制度についても、もう少し考えてほしい」

「3年抱っこし放題」と言っても…

―政治と社会の間にずれがある。

 「首相が3年育休を『3年抱っこし放題』と言ったが、産後1カ月で復帰しなければならない人もいる。働きたい時に働けるようにするのが政治だ。子育てをしながら仕事を続けることは当たり前。十分ではないが、企業は多様性を認めようと変わりつつある」

―新型コロナウイルスの感染拡大の影響は。

 「経済的な理由で子どもをつくらない選択をする人が増えると思う。不要不急だと不妊治療を受ける人も一時、すごく減った。経済的な理由で受けられない人も多い。少子化に追い打ちをかけないか心配だ」

吉村泰典(よしむら・やすのり) 

1949年岐阜市生まれ。慶応大名誉教授、産婦人科医。2013年から内閣官房参与として、少子化対策・子育て支援を担当。

[元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年9月7日

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  • 匿名 says:

    多様性を認めて!、と声高に主張されても、主張している人がLGBTQでない独身や子供がいない家庭を認めないのが現実。
    「自分達は法律のせいで結婚できなかったり、子供を望めないんだから、お前たちとは違う」と、心身に欠陥があると言われます。
    子供を持たない、生涯独身は、多様性でなくワガママだそうです。
    LGBTQの人達が差別をしているに、なぜ一方的に理解を求めるのでしょうか?

      
  • 匿名 says:

    多様な子育てを奨励する考えは悪いとは言えませんが、元来、子供の人格形成や情緒発達には、男女の親の果たすべき役割が重要だと思っています。

    その議論を跳び抜かして方法論ばかりに目を奪われ、子供の気持ちがないがしろにされては子供が可哀想です。

    自分には父親がいないが母親がどこかで作ってきた子供だ。自分はどこからかもらわれてきた子供だ。自分の母親は、結婚せずに誰かの精子をもらって生まれた子供だ。

    例えば上記のような生育環境で、子供がしっかり自己アイデンティティを形成し、精神的に安定した人生を送るには、社会として新しくどのような仕組みや取り組みが必要か。

    まずはそこをしっかり今の大人たちが議論し準備する事が、重要ではないでしょうか。

    子育ては将来の国力に直結しますから、国家が繁栄するか衰退するか、今が大きな正念場と言えるでしょう。

      

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