安倍元首相の銃撃事件を子どもにどう伝える? 児童心理の専門家と小学校教員からのアドバイス

長田真由美 (2022年7月19日付 東京新聞朝刊)

葬儀を終え、多くの人に見送られながら増上寺を出発する安倍元首相のひつぎを乗せた車=12日、東京都港区で

 安倍晋三元首相が銃撃され死去した事件は、大人だけでなく、子どもの心にもショックを与えている。気持ちをどう受け止め、どんな言葉をかけ、説明すればいいか。子どもの心理に詳しい名古屋大大学院准教授の野村あすかさん(35)と、育児雑誌の編集者で小学校の教員を長年務め、今も教壇に立つ岡崎勝さん(69)に聞いた。 

不安な子には「見守っている」態度を 名古屋大大学院准教授・野村あすかさん

心がざわざわする…正常な反応

 銃声が響き、加害者を引き倒す映像が繰り返し流れた。こうしたニュースに触れた子どもの反応はさまざま。言葉で表現するのが難しく、体に表れることがある。寝付きが悪くなったり食欲がなくなったり。恐怖や不安を感じることもあれば、なんでこんな事件が起きたのかと怒りが湧くことも。逆に何事もやる気が出ないなど、いつもと違う様子がみられることがある。

 大人も同じで、心がざわざわする。これは「異常事態における正常な反応」で、心理学の世界では普通のこと。正常に外の世界に反応しているといえる。ただ、子どもの場合、生々しすぎるニュースは不安定にさせるので、距離を取り、見ないことも大事になる。

かける言葉は発達段階に応じて

 子どもへの声かけは、発達の段階によって異なる。小学校低学年なら、言葉で説明しても理解が追いつかないことがある。「家や学校は安全だよ」「大人がちゃんと守ってあげるよ」など、シンプルに伝える。不安そうな子には一緒に家の鍵をかけるなど、見守っているという態度を見せることが大事。中学年以上なら、いろんな疑問が湧く時期で、自分の心の動きや事件について質問されたら、分かる言葉で話してほしい。

 こうした反応は、ほとんどの子が、時間の経過とともに収まる。ただ、最近身近な人の死を経験したり、元々心の不調があったりした子は影響を受けやすい。いつもと違った反応が長く続く場合は、スクールカウンセラーや医療機関に相談してほしい。

親子で一緒に考える時間を持ちたい 小学校教員・岡崎勝さん

子どもには不要な情報もある

 基本的に、親が見せたくないと思った情報は避けていい。銃撃の場面やネット情報でピストルを自作したことなどは、子どもに不要だと思う。ただ、今は繰り返しメディアで流れ、子ども同士の話題にも出てくるので遮断できない。子どもが悩んだり精神的にダメージを受けていたりしたら親が支えてほしい。

 「命は大事。暴力で奪うことはよくない」。これは大前提。小学校低学年にはあらためて伝える。中学年以上は、さらに問いただしてくることもあるので、率直に答えてほしい。周りの大人の受け止め方や考え方が、子どもにとって勉強になる。私なら「つらく悩んでいる時、受け止めて一緒に解決方法を考えてくれる人がいないと、苦しさがあふれ出て暴力になってしまう。友達や家族は大事だよね」と言う。不明なことは「今の情報ではわからない」、ネットでおかしな発言があったら「言い過ぎじゃない?」と話すのもいい。

「攻撃的な言葉」で断じない

 ただ、凶悪な事件でも、安易な言葉や攻撃的な言葉で断じることは避けた方がいい。今の時代は、一面的に物事を論じがちだが、いろんな見方がある。例えば、ロシアのウクライナ侵攻も同じ。学校でも子どもから、どちらの国が悪いのかと聞かれる。ロシアが武力行使をしたのは事実。ただ、他国がウクライナに武器を供給する現状は、死者を増やすことにならないか。今回の銃撃事件も丁寧に話し、親も子どもと一緒に考える機会を持てるとよいのではないか。