安倍元首相の銃撃事件を子どもにどう伝える? 児童心理の専門家と小学校教員からのアドバイス
不安な子には「見守っている」態度を 名古屋大大学院准教授・野村あすかさん
心がざわざわする…正常な反応
銃声が響き、加害者を引き倒す映像が繰り返し流れた。こうしたニュースに触れた子どもの反応はさまざま。言葉で表現するのが難しく、体に表れることがある。寝付きが悪くなったり食欲がなくなったり。恐怖や不安を感じることもあれば、なんでこんな事件が起きたのかと怒りが湧くことも。逆に何事もやる気が出ないなど、いつもと違う様子がみられることがある。
大人も同じで、心がざわざわする。これは「異常事態における正常な反応」で、心理学の世界では普通のこと。正常に外の世界に反応しているといえる。ただ、子どもの場合、生々しすぎるニュースは不安定にさせるので、距離を取り、見ないことも大事になる。
かける言葉は発達段階に応じて
子どもへの声かけは、発達の段階によって異なる。小学校低学年なら、言葉で説明しても理解が追いつかないことがある。「家や学校は安全だよ」「大人がちゃんと守ってあげるよ」など、シンプルに伝える。不安そうな子には一緒に家の鍵をかけるなど、見守っているという態度を見せることが大事。中学年以上なら、いろんな疑問が湧く時期で、自分の心の動きや事件について質問されたら、分かる言葉で話してほしい。
こうした反応は、ほとんどの子が、時間の経過とともに収まる。ただ、最近身近な人の死を経験したり、元々心の不調があったりした子は影響を受けやすい。いつもと違った反応が長く続く場合は、スクールカウンセラーや医療機関に相談してほしい。
親子で一緒に考える時間を持ちたい 小学校教員・岡崎勝さん
子どもには不要な情報もある
基本的に、親が見せたくないと思った情報は避けていい。銃撃の場面やネット情報でピストルを自作したことなどは、子どもに不要だと思う。ただ、今は繰り返しメディアで流れ、子ども同士の話題にも出てくるので遮断できない。子どもが悩んだり精神的にダメージを受けていたりしたら親が支えてほしい。
「命は大事。暴力で奪うことはよくない」。これは大前提。小学校低学年にはあらためて伝える。中学年以上は、さらに問いただしてくることもあるので、率直に答えてほしい。周りの大人の受け止め方や考え方が、子どもにとって勉強になる。私なら「つらく悩んでいる時、受け止めて一緒に解決方法を考えてくれる人がいないと、苦しさがあふれ出て暴力になってしまう。友達や家族は大事だよね」と言う。不明なことは「今の情報ではわからない」、ネットでおかしな発言があったら「言い過ぎじゃない?」と話すのもいい。
「攻撃的な言葉」で断じない
ただ、凶悪な事件でも、安易な言葉や攻撃的な言葉で断じることは避けた方がいい。今の時代は、一面的に物事を論じがちだが、いろんな見方がある。例えば、ロシアのウクライナ侵攻も同じ。学校でも子どもから、どちらの国が悪いのかと聞かれる。ロシアが武力行使をしたのは事実。ただ、他国がウクライナに武器を供給する現状は、死者を増やすことにならないか。今回の銃撃事件も丁寧に話し、親も子どもと一緒に考える機会を持てるとよいのではないか。