離婚時に使える「調停」とは? 訴訟より安く手軽、調査官が子どもの気持ちをケア 制度発足100周年

藤原啓嗣 (2022年10月28日付 東京新聞朝刊)

「当事者だけでは離婚成立まで何年かかったか分からない」と話す女性=愛知県内で

 身近なトラブルを話し合いで解決する調停制度が、10月で100年を迎えた。最も利用されているのは、離婚や遺産相続など家庭の問題を扱う家事調停で、受理件数はこの10年ほど高止まりしている。どういった利点があるのか、利用者や関係者らにあらためて聞いた。

家事調停 誰でも家裁に申し立て

 「子どもにとっては父親だから、大ごとにしたくなかった」。愛知県内の30代女性は今年、家事調停で5年ほど連れ添った夫との離婚が成立した。子どもを連れて離婚するつもりだったが、主に金銭面で元夫ともめ、話し合いは平行線だったという。知人が家事調停で離婚しており、弁護士に相談。「非公開で、自分だけで向き合うより良さそう」と考えて利用した。

 女性によると、2人の調停委員が双方の話を平等に聞き、背景を察するように努めてくれたほか、書記官は必要な書類の用意や手続きを親切に教えてくれた。「相手の顔を見ることもつらく、2人で話し合って離婚しようとしたら何年かかったか分からない。調停開始から1年かからずに離婚できて、精神的にも金銭的にも良かった」と感謝する。

 家事調停は全国の家裁に申し立てることで、誰でも始められる。手続きが比較的簡単で、費用は代理人を立てなければ手数料(1200円)や郵送料などで訴訟より安い。家裁の裁判官と一般市民から最高裁が任命する調停委員が話し合いを仲介し、委員は原則、男女1人ずつの2人。調停が成立すると裁判所の判決と同じ効力を持ち、不履行の場合は家裁が強制執行などの手続きを取る。

「子の監護」「婚姻費用の分担」

 昨年の受理件数は13万2556件。金の貸し借りなどを扱う民事調停が、最盛期の61万件から3万件に減っているのとは対照的に、ニーズは高い。

 紛争解決に詳しい名古屋大の原田綾子教授(45)(法社会学)は「離婚を巡る争いが一定数あり、離婚などの家庭問題は、訴訟の前に調停をするという調停前置主義が適用されるから」と指摘する。

 家事調停の内訳は、離婚など「婚姻中の夫婦間」を巡る案件が最多。面会交流のルール作りなどの「子の監護」「婚姻費用の分担」が続いた。「父親の子育て参加が積極的になった分、面会交流を求めて調停を使う人が多くなってきた印象」と原田さん。

 当事者に子どもがいる場合は、心理学や教育学の知識を持つ家裁の調査官が子どもから気持ちを聞き取り、調停委員や親らに伝える。年齢に応じてお絵描きセットなどの道具を用いて話を引き出すなどし、報告書にまとめる。名古屋家裁の男性調査官は「子どものためになるような解決を目指し、話し合いに参加しない子どものことを伝えている」と語る。

昨年は約14万件 うち47%が合意

 昨年は、13万9184件の調停が終わり、47%が合意して成立した。「双方の言い分を尊重して解決するので、人生の次のステップに移りやすい」と元調停委員。名古屋家裁の脇博人所長は「トラブルを円満に解決するために設けられた利用しやすい手続き。これからもニーズに合った制度に進化を続けていく」とコメントした。

 制度の節目の年にあたる今年は、名古屋家裁が家事調停の説明会を開くなど、各家裁で啓発に力を入れる。原田さんは「今後は教育で調停の仕組みを教えるとともに、養育費の支払いや面会交流が滞らないように、調停を利用した人を支える団体や国の制度も整備されるべきだ」と求めた。

調停制度とは

1922年10月に施行された借地借家調停法が始まり。家事調停は1939年の人事調停法施行によりスタートした。新型コロナウイルスの影響もあり、昨年ウェブ利用が始まった。他に交通事故や近隣トラブルなどを話し合う民事調停、多重債務などを扱う特定調停がある。