北浦和で2つの民間学童が存続危機 建物取り壊し予定も移転先が見つからず…民間任せでいいの?

藤原哲也 (2022年12月7日付 東京新聞朝刊)

施設前で同僚と移転先などの課題について心配そうに語る田村さん(右)=さいたま市浦和区で

 さいたま市浦和区で市の委託を受けてNPO法人が運営する放課後児童クラブ(学童保育)「北浦和スターズ・ドリームズ」の2施設が、存続の危機に立たされている。建物の取り壊しが予定され、来春以降の移転先を探しているが、物件不足などでめどが立っていない。民設クラブのため、物件探しの負担は指導員や保護者らに重くのしかかる。学童関係者は「施設探しが民間任せになっているのも大きな問題」と指摘する。

仕事を抱えながらの物件探しは難しい

 「スターズのメンバーがバラバラになるのは嫌。ただ現実を考えると、このままでは難しい」。スターズで指導員を務める田村美穂子さん(47)は同僚と築56年の施設を見上げて肩を落とす。

 保護者らでつくる同じNPOが運営する両施設は、近くにある借家を活用して2015、2018年にそれぞれ開設。共働き家庭などの小学1~6年生約60人が利用する。移転が浮上したのは今年に入ってから。借家の所有者が東京都内の不動産会社に代わり、建物の取り壊し希望を伝えてきたためだ。

 田村さんは不動産業者を回り、保護者と近所の空き物件をしらみつぶしに当たってきたが、住宅開発が盛んな地区でもあり難航。苦肉の策として施設の分離も検討するが、子どもたちは離れ離れになってしまう。窮状を訴えるチラシで、今後は候補地に回覧板などで呼びかける。田村さんは「自分も保護者も仕事を抱えながらの物件探しは本当に厳しい。この仕組みも何とかしてほしい」と訴える。

移転先候補を募るために田村さんが作ったチラシ

背景は…子どもが増えても低い公設率

 問題の背景には、さいたま市特有の事情がある。民設クラブの約半数が加盟する市学童保育連絡協議会によると、学校内や児童館内を活用する施設の公設率は約40%で全国平均の半数にとどまる。加えて全国1位の人口増加数から子どもの数も増え続けていて、増設や分離開設が相次ぐ。

 だが、保育園と違って学童は民間企業の参入が少なく、昔ながらの保護者運営の施設がまだ多いという。協議会事務局長の渋谷次郎さん(57)は「補助金などが十分でないため、手を挙げる企業や人が少なく保護者でやるしかない状態。北浦和のような事例も毎年のようにある」と話す。

さいたま市内の学童保育の課題について語る渋谷さん

委託金増や処遇改善を求める署名活動

 協議会ではこれらの現状を踏まえ、行政の責任での施設整備を求めることや、民設クラブの運営に投じられる委託金の増額、働く職員の処遇改善などを求める署名活動を展開中で、月内にも市に提出する予定だ。渋谷さんは「コロナ禍で保護者会活動が難しくなる中でなぜ施設探しまで、という思いもある。少なくとも移転に関わる助成金は増やしてほしい」と訴える。

 北浦和の状況について、さいたま市青少年育成課の川添敦司課長補佐は「35人学級の実施で学校の空き教室も少なく心苦しいが、可能な範囲で協力している。市のホームページや不動産会社を通じてこちらも探しているが、なかなか見つからないのが現状。今後も学童保育の充実に向けて、所管課として要望を受け入れていきたい」と話している。

さいたま市の学童保育

 4月1日現在で公設クラブ74カ所、民設クラブ222カ所あり、計1万2071人の小学生が利用する。希望しても入所できない待機児童は340人。昨年度はコロナ禍の影響もあって2020年度より145人減の224人だったが再び増加した。さいたま市学童保育連絡協議会によると、民設は公設より保育料が月額で最大1万円ほど高くなる。同協議会加盟クラブの2020年の平均月額は約1万6600円。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年12月7日