子どもを持つ女性カップルは元秘書官の差別発言をどう受け止めたか 同性婚ができず、国籍も親権も財産も「当たり前の法的保障がない」

(2023年2月15日付 東京新聞朝刊)

同性カップルとして子育てする坂田麻智さん(左)とテレサさん。娘は愛犬に興味津々=2022年12月(坂田さん提供)

 子育て中の同性カップルの声を聴いて-。当事者らでつくる団体「にじいろかぞく」(東京)が、同性婚を巡る元首相秘書官の差別発言を契機に、岸田文雄首相へメッセージを送るプロジェクトを進めている。「政治の中心から出た差別の言葉。悲しいし、ショックで、怒りが湧いた」と語る会社員の坂田麻智(まち)さん(44)と米国籍のテレサさん(39)=ともに京都市=のカップルも、昨夏生まれた女の子を巡る体験などをつづろうとしている。

米国籍のテレサさん 精子提供で出産

 子どもは精子提供を受けてテレサさんが出産した。直後から2人は不便を感じることになる。日本では同性婚が認められていないため、坂田さんは法律上の親になれず、出生届には米国籍のテレサさんのみ名前を記した。このため子どもは日本国籍がなく、漢字名の登録もない。

 将来のため、学資保険を検討しようと調べたが、法律上の親でない坂田さんが契約できるプランは見当たらなかった。「娘を病院に連れて行ったら親として病状説明を受けられるのか。テレサに万が一のことがあったら、子どもの親権や財産は?と不安が尽きない」と坂田さんは話す。

なぜ日本だけ…「扱われ方の差を痛感」

 同性婚ができる米国では、2人の結婚を認められている。米国領事館への提出書類では、坂田さんは子どもの親として名前を書き、受理された。「先進7カ国(G7)で同性婚や、それに準じた法制度がないのは日本だけ。扱われ方の差を痛感した」と坂田さん。

 日本で10年以上暮らすテレサさんは、永住権を取得し、会社に勤めている。でも坂田さんと子どもに親子関係がないことで「男女のカップルなら当たり前に得られる法的保障がなく、心配になる」という。

「政府と世間にズレ」早急な法整備を

 2人は、同性カップルが結婚できない現行制度は憲法違反だとして、国に損害賠償を求める集団訴訟の原告でもあり、現在、大阪高裁で控訴審が続く。同種訴訟では昨年11月、東京地裁が、同性カップルを家族とする法制度について「子の福祉等にも配慮した上で、立法府で十分に議論、検討がされるべきだ」と子どもの幸せも含めて考えるよう、判決で示している。

 そうした動きの中での、元首相秘書官の差別発言。坂田さんは「複数の世論調査でも今は同性婚賛成の方が多い。差別発言で政府と世間とのズレが露呈した」として早急な法整備を求める。仕事の都合もあり、一家は今後も日本で暮らす予定といい、テレサさんは「性的マイノリティーであることで選択肢が狭められない社会になってほしい」と願う。

小学生が岸田首相に宛てて書いたメッセージ=にじいろかぞく提供

岸田首相へ「ママたちにけっこんさせてあげたい」メッセージ計画

 「にじいろかぞく」は元首相秘書官の差別発言を受け、はがきによるメッセージ送付プロジェクトを発案した。全国の会員家族に呼びかけ、すでに首相官邸宛てに投函(とうかん)した人もいる。

 にじいろかぞくの共同代表の小野春さんによると、4人家族のイラストを添えて「ママたちにけっこんさせてあげたい」と小学生が記したはがきの他、「わたしの学校のともだちはママが2人のことをわかってくれるのに、日本はなぜわかってくれないんですか」といったメッセージを書いたとの報告が来ている。

 にじいろかぞくは、今後はホームページに趣旨や郵送方法などを掲載し、当事者以外の参加も求める。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年2月15日