同性婚「家族だから、法的に家族として扱ってほしい」 11・30東京地裁判決を控える女性カップルと息子の思い

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東京地裁判決を控え、思いを話した西川麻実さん(左)と小野春さん

 戸籍上の同性同士の結婚が認められない今の法律は憲法違反だとして、2019年に同性カップルらが国に損害賠償を求め、東京地裁など全国5つの裁判所に提訴しました。東京地裁の原告には、互いに一度は男性と結婚してもうけたそれぞれの子ども計3人を、ともに育ててきた女性同士のカップルもいます。11月30日に一連の裁判で3件目の判決が東京地裁で言い渡されるのを前に、「2人のお母さん」と成人した息子さんに、判決を控えた今の思いを聞きました。

うちはお母さんが2人 提訴の際に公表

 東京都に住む50代の小野春さんと40代の西川麻実さんのカップルは、2019年2月14日の提訴に合わせて初めて顔を出してメディアの取材を受けました。東京すくすくでもインタビュー記事【「普通の家族」ってなによ?うちはお母さんが2人 同性婚を求め提訴した女性カップルの子育て】を掲載しました。

-同性パートナーの存在を公表した反響は。

春さん 提訴後、ママ友や近所の方に「ニュースで見たよ」「応援しているので頑張ってください」と声をかけてもらいました。受け入れてもらえないかも…と不安だったけど、皆さん温かかった。でも、いまだに報道で自分たちの姿が出るとドキドキします。

麻実さん 私たちが同居を始めた時、子どもたちは保育園児と小学生でした。それまでも取材を受けることはあったけれど、子どもたちへの影響を考えて顔は出してなくて。提訴の時は高校生と大学生、今は全員成人しました。友人は提訴のニュースを見たようで「気づいたよ」と言ってくれました。

女性同士で子育てしてきた西川麻実さん(左)と小野春さん。同居を始めた時は保育園児と小学生だった子どもたちは成人した

息子さん (親が原告になっても)友達とかからは特に何も言われなかったな。

春さん 私の中で顔を出すことは大きかった。幸い、周りに好意的に受け止めてもらったことで日常生活でのカミングアウトへの敷居は以前より下がりました。パートナーが同性なだけだと思えるようになりましたね。

「異性愛者になろう」と苦しんだ過去 

-2人は法廷で自らの生い立ちや家族の歩み、結婚への願いを訴えました。

麻実さん それまで嫌なことにふたをして生きてきたけれど、過去の経験や記憶を思い出して意見陳述するのはつらかったです。私は20代前半の時に「異性愛者になろう」と頑張っていた時期がありました。同性愛者と自覚しながらも無理をしていたせいで、大人になるための準備ができなかったという悔しい思いがあります。

 なぜあの時、異性愛者を装って生きようと思ったのか。異性を好きになろうと思ってもできず、同性愛者として生きていくと決めた人もいるのに、私はどうしてできなかったのだろうと。

 今思えば、男女の組み合わせが前提となっている社会に「異性愛者として振る舞わなければいけない」と思わされていた。今でもLGBTQ(性的マイノリティー)の若者には、社会や周囲の目から負荷がかかって、心や体に無理強いをしている子がいると思います。私のように後悔しないですむように、世の中を変えたい。

東京地裁に入る原告たち(2022年5月)

息子さん (麻実さんの)意見陳述の時にきょうだい3人で傍聴しました。僕たちはそれまでも「普通の家族」で、裁判がきっかけで親への見方が変わったことはありません。けれど、傍聴して、この裁判で婚姻の平等(同性婚)を認める方向に社会が少しでも前進してほしいと思いました。家族として法的な関係があった方が、安定感が違う。戸籍上の同性同士の結婚が認められたら、カミングアウトしにくいという人も減ると思うし、偏見もなくなっていくと思います。

春さん 若いころは「同性カップルが結婚できるように求めるなんて図々しい」とすら思っていました。「平等や権利は建前でしょ」と。振り返ると、そう思わされていたんですよね。

 原告として一緒に闘ってきた佐藤郁夫さんが2021年に亡くなったことも大きかったです。やっぱり、法整備が必要だと実感しました。たった一人のパートナーが倒れても、法的な関係がないと、病院側の考え一つで最期に会えない可能性がある。佐藤さんのパートナーは、親族の仲介でなんとか最期に立ち会えたけれど、状況によっては難しかったかもしれない。堂々とパートナーだと言えず、「友人」と偽らなくてはいけないこともあります。ただでさえ悲しいのに、余計につらい状況に直面してしまう。

パートナーシップ制度と「婚姻」は違う

-提訴から3年9カ月余り。LGBTQのカップルを公的に認める「パートナーシップ制度」は全国240超の自治体が導入するなど広がっています。

麻実さん 特に東京都がパートナーシップ制度を導入したインパクトは大きかったと思います。都職員の福利厚生などで同性パートナーを家族として扱うことになったのは、身内からちゃんと変えようという姿勢が見えてうれしいです。

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今夏の旅行の写真を見ながら思い出を語る西川麻実さんと小野春さん

春さん パートナーシップ制度の広がりは良かった半面、婚姻制度とは違う点も忘れてはいけないと思っています。法的な家族にはなれないので、「婚姻の平等」の実現とはいえない。共同で親権も持てないし、配偶者として相続もできません。

-裁判では国の主張に憤りを感じたと話していました。

春さん それまで、国は同性愛者が困っていることを知らないんだ、と思っていました。当事者が「これだけ困っている」と伝えたら、分かってくれると期待していた。だけど、裁判を通じて、結婚制度の目的は自然生殖を保護することにあるとか、同性愛者も異性とは結婚できるのだから問題ないなどと、戸籍上の同性同士の結婚を認めようとしない国の主張にびっくりしました。

 「生殖」の話ばかりされて、私たちが同性カップルとして子どもたちを育ててきた歴史は無視なの?と憤りさえ覚えました。うちの子たちだって、同じように法的に安定した関係性の中で育ててあげたかった。「子の福祉」と言うけれど、あまり考えてないんだなと思いました。

麻実さん 子どもは産んだら勝手に育つわけではないですよね。
 また、結婚は相手がいて成り立つことなのに、同性愛者も異性となら結婚できるのだから差別ではない、「法の下の平等」に反しない、という国側の主張には本当に驚きました。

政治は生活に密着 裁判で痛感した

-昨年3月、札幌地裁判決は同性同士が結婚できないのは憲法14条の「法の下の平等」に反するとして違憲と判断した一方、今年6月の大阪地裁判決は違憲性を認めず、判断が分かれました。11月30日の東京地裁判決に注目が集まります。

麻実さん 大阪地裁の判決には誠実さを感じませんでした。大阪地裁はパートナーシップ制度の広がりなどを指摘して、同性愛者の不利益が相当程度解消ないし軽減されている、としました。法整備が進まない現状への苦肉の策として、自治体レベルでパートナーシップ制度の導入を訴えてきた経緯があるのに、制度が広がったから「それで良かった」とはなりません。東京地裁の裁判長には、原告の話に耳を傾けた上での判決をお願いします。

春さん 裁判の原告になって、政治は遠いものではなく生活に密着しているものだと痛感しました。選挙の際に候補者の政策まで見るようになりました。政治家も遠い存在ではなく、中には一緒に問題に取り組んでくれる人もいると分かりました。一方で、会ってくれさえしない人もいて、政治家に対する見方も変わりましたね。

 私たちが求めていることはシンプルで、家族だから法的に家族として扱ってほしい、それだけです。現状、家族なのに家族じゃないと扱われるから、1つの家に2家族が住んでいるとか、パートナーが産んだ子との間に法的な親子関係がないとか、不自然なことがたくさんある。裁判所には原告らの思いを正面から受け止めてほしいです。

〈インタビューを終えて〉矢面に立ち、傷ついてきた2人…「婚姻の平等」をかなえてほしい

 2人のお母さんと、大きくなった息子。そこには3年9カ月前と変わらず、お菓子を囲んで冗談を言い合うだんらんの風景がありました。ただ、以前と違うのは、裁判を通じて同性同士の結婚を認めない国の具体的な主張や理由に触れ、この家族が少なからず傷つき、失望し、憤ってきた上での今があることです。

 ある時は、国は「自然生殖可能性」という言葉を繰り返し、結婚の目的とは「男性と女性が子を産み育てながら共同生活を送る関係に対し、特に法的保護を与えること」と強調しました。同性カップルは法的保護に値しないというわけです。

 また、ある時は担当の裁判長が、原告たちの個別事情を「夾雑物(きょうざつぶつ=余計なもの)」と表現して、本人尋問を実施しない方針を示しました。幸い裁判長が替わって尋問は実施されましたが、2人や他の原告たちの憤りはひしひしと伝わってきました。

 小野さん、西川さんが顔を出して原告になるのには相当な覚悟があったはず。「婚姻の平等」を実現するため、矢面に立ち続ける2人。判決ではこれ以上傷つかぬように、そして「法的にも家族に」との思いが叶うよう、願わずにはいられません。(奥野斐)

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