共同親権の推進派「父母が対立しても子の利益に資するなら」慎重派「DVや虐待が続く恐れ」 民法改正の要綱案、法務省が8月にもたたき台…法制審部会で賛否

大野暢子 (2023年7月23日付 東京新聞朝刊)

 離婚後の父母がともに子の親権を持つ「共同親権」の導入に向け、法務省は8月にも、民法改正の要綱案のたたき台を法制審議会(法制審)の部会に示す。現行制度は離婚後、父母のいずれかが親権を持つ「単独親権」だが、共同親権を選択肢に加えた上で、子の重要事項は原則父母で決めるとする案が有力だ。部会では、子の利益になるとして賛同する意見の一方で、子が父母の対立に巻き込まれ続けることを懸念した慎重論も根強い。

「満場一致ではないが、支持された」

 「満場一致ではないが、子の利益になる場合に共同親権を認めるという方向性がおおむね支持されたので、法制化もこの方向になる。離婚後も協力して子育てする親が今より増えるだろう」。法務省関係者は取材にこう語り、部会での意見集約に自信をのぞかせた。

 法制審部会は識者や実務家らでつくる法相の諮問機関。今後は要綱案のたたき台を基に議論を続け、ドメスティックバイオレンス(DV)防止策、離婚で既に親権を失った親にも共同親権を認めるかなどを検討した上で要綱案を了承し、秋以降、法相に答申する。法務省は与党の了承を得て、来年の通常国会での民法改正案提出をにらむ。

 法務省は今春以降の部会で、話し合いで別れる協議離婚の父母に対し、単独親権だけでなく、共同親権も選べるようにする制度案を提示。父母が対立し、離婚調停や裁判に発展している際には、裁判所が子の利益の観点から単独親権か共同親権のいずれかを決定できるとの仕組みも例示した。

ひとり親支援の立場から見た問題点

 だが、本格的な議論は始まったばかりで、国民的な合意形成は道半ばだ。

 法制審部会の出席者や議事速報によると、民法学者や、子と離れて暮らす親の支援に取り組む委員らが法務省の示した考え方に賛同。「父母が合意すれば共同親権を否定する理由はないし、仮に父母が対立して合意できなくても、子の利益に資する場合には適用すべきだ」といった意見が出ている。

 一方、ひとり親支援に取り組む委員らは、どちらかの親が拒んでも共同親権を強いられる可能性が残る点を問題視。DVや虐待が離婚後も続く恐れや、進学や医療など重要な決定に際して父母の意見が対立した場合の子の不利益を訴えた。

慎重な検討を促すオンライン署名も

 離婚後、子と疎遠になっている親らには、子育てに関わりやすくなるとして導入への期待感もあるが、多様な家族観を背景に、世論の反応は割れている。

 導入に慎重な親らは、法制審部会の傍聴ができず、議事録の公開も数カ月遅れだとして、議論の透明性向上や導入時の問題点も含めた慎重な検討を促すオンライン署名「#ちょっと待って共同親権 法務省の審議会に慎重な議論を求めます!」を今月から始めている。

本当に子の利益に?透明性の高い議論を

◇元家裁調査官で和光大の熊上崇教授(司法犯罪心理学)の話 共同親権の法制化が本当に子の利益になるのか。相手に逆らえなかったり、離婚の条件にされたりしたことで、意に沿わない共同親権に合意をしてしまうケースをどう防ぐか。こうした点が、法制審部会では十分に検討されていない。推進派委員と慎重派委員の隔たりはなお大きく、このまま法制化に向かうのは拙速だ。国民に重大な影響が及ぶ法律にふさわしい、透明性の高い議論を求めたい。

親権とは

 子の身の回りの世話や教育、どこに住むかの決定、財産管理などを行う親の権利と義務。現行民法では婚姻中は父母が共同で、離婚後はいずれか一方が行使する。離婚する父母は、子の利益を最も優先し、どちらが子の世話をするかや、面会交流、養育費のあり方を話し合いで決めると定めている。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年7月23日