神奈川県議会の子連れ傍聴対応は「半個室」で決着 ベビーベッドはあるが…乳幼児が泣いたらどうなる?
神奈川県議会は本年度内にベビーベッドを備えるなどした「多目的傍聴室」を設置すると決めた。子育て世代にも本会議の議論を直接聞いてもらう機会を増やすのが狙いだ。同様の取り組みは全国的に広がりを見せているが、先行する他県では利用実績が伸びていない例も目立つ。施設整備の工夫よりも、行政とのなれ合いで低調な審議の活性化を図るべきだと、冷ややかな目を向ける専門家もいる。
子連れ専用ではない「多目的傍聴室」
神奈川県議会の主要会派は今月12日、来年3月までに「多目的傍聴室」を設けることで合意した。既存の傍聴席の後列中央部分にガラス製の間仕切りを置いて3.6平方メートルのスペースを確保し、ベビーベッドやいす数脚を置く想定だ。
発案者の加藤元弥議長(自民党)が「障害のある人も気軽に来られるようにしたい」と主張したこともあり、子連れ専用にはしないという。費用は600万円と見込む。
仕切りの高さで論争 県の提案通りに
導入自体に異論は出なかったが、遮音性の鍵となる間仕切りの高さを巡って意見の対立があった。神奈川県は部屋の新設時に消火設備の取り付けを義務付ける消防法の規定などを盾に、天井から30センチの隙間を開ける必要があると説明。一方、一部の県議は乳幼児が泣いたり騒いだりするのを気にしていては傍聴に集中できないとして、音漏れしない完全な個室を検討すべきだと主張した。
予算の制約もあり、最終的には県の提案通り「半個室」にすることで折り合った。ただ、ある野党議員は「子どもが泣いたら外に連れ出さなければならない部屋をつくることになる。安物買いの銭失いにならなければいいが」と不満を漏らす。
しかし先行する他県では、利用は低調
東京新聞の取材によると、子連れら向けに個室の傍聴席をつくる動きは全国的に広がりつつあり、栃木県、岐阜県など少なくとも6県議会で設置済み。市町村議会でも、横浜市や東京都町田市など人口の多い都市を中心に徐々に増えている。庁舎建て替えの際にあらかじめ組み込むケースも目立つ。
ただ、利用実績ははかばかしくないようだ。先行して設置した複数の議会に話を聞くと、ほとんどは「年間3~4組ほど」(岐阜県議会)など1桁にとどまっていた。ある西日本の県議会は「利用者には、質問に立つ議員の家族や関係者が多い」と明かす。本来の目的である「開かれた議会」の実現に必ずしもつながっていない実態が浮かぶ。
神奈川県議会が設置に先立ち、県民のニーズや他県の状況をつぶさに把握しようとした形跡はない。本格的な検討を始めたのは先月25日で、会議を2回開いただけのスピード決着だった。
地方議会の「儀式化」や時間帯が問題
もっとも、地方議会の実情に詳しい「かながわ市民オンブズマン」代表幹事の大川隆司弁護士は「親子傍聴室の設置を否定はしないが、議会を見に来る人が少ないのは傍聴しづらい時間帯にやっているから。週末や夕方に本会議を開くなど、別の方策を検討すべきだ」と強調する。
その上で、行政が議員の質問づくりに協力したり、事前の質問通告に基づいて用意した答弁を読み上げたりするなどの問題に言及。「そもそも地方議会の議論が儀式化、定式化している。つまらないのも傍聴者が少ない理由では」と突き放す。
[元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年10月19日]
【10月24日追記】
川崎市議会の親子席は遮音型に
新議場に設定 奥には授乳室も
川崎市役所本庁舎の建て替えに伴い、11月6日に新庁舎に移る川崎市議会は、新たな議場に親子席を設けた。
川崎市本庁舎等整備推進室によると、広さは約11平方メートルでソファ席があり、ベビーカーに子どもを乗せたまま入ることもできる。
幼い子どもが泣いたりぐずったりしてもいいように、遮音性のある間仕切りを使用。議場内のやりとりはスピーカーを通して親子席で聞くことができる。大きなガラス窓から議場の様子を見ることもできる。
親子席の奥には授乳室を設置。おむつ交換台と授乳用のいすを備えている。(北條香子)