〈スマホと子ども〉ネグレクトかも? 情報交換に欠かせない親がスマホ依存

(2017年9月15日付 東京新聞朝刊)

 親にとって、子育ての情報交換や収集に欠かせないスマートフォン。ただ、次から次に目に飛び込んでくる情報を追っているうちに熱中し、子どもに目をかけなくなっては本末転倒だ。最近は、親がスマホに夢中になり、子どもを無視してしまう「スマホネグレクト」という言葉も使われるようになってきた。専門家は親子の愛着を築きにくくなる状況を心配する。

学童保育、幼稚園の連絡、仕事関係のメール…

 「ママ、スマホ置いて!」。名古屋市内の会社員の母親(37)は8月中旬、次女(4つ)に自宅でそう言われた。思わずイラッとして「ママだって、忙しいの」と、声を荒らげた。

 小学二年生の長女(8つ)が通う学童保育の保護者からのメールに返信している最中だった。受信したのは、土曜日の夜に開かれる保護者集会の案内。夏休みの家族旅行と重なるため参加できないことを、失礼にならないようにと気を使いながらメールを打っていた。

 仕事関係のメールも毎日10通ほど。すぐに返信しないと忘れてしまう。次女が通う幼稚園からは、スマホのアプリに、持ち物やイベント案内などの連絡が毎日のように届く。スマホなしでは自身や子どものスケジュール管理も難しいし、子どもの交友関係に影響しかねない母親同士の情報交換もできない。だから、スマホを開くのは娘のためでもある。なのに、次女に「スマホばかり見ている」と非難されたような気がした。

目的もなく触る、見ないと落ち着かないはすでに「依存」

 だが、いつもなら寝る前に本を読んでほしいと頼んでくる次女がしゅんとしているのを見て、「自分はなんてひどい母親だ」と後悔した。振り返ると、メールだけでなく会員制交流サイト(SNS)などで仕事相手や友人の近況、ニュースを見るために、30分に1回は無意識にスマホを触っていた。

 常に「フォロー」して情報を追っていないと、話題に乗り遅れるようで落ち着かなくなっていた。目的もなくスマホを触るのが癖になっていたり、スマホを見ないと落ち着かなかったりするのは既に「スマホ依存」の状態という。母親は次女に「注意」されてからは、「電話が鳴らない限り、子どもの前ではスマホを触らない」というルールを自分の中で作っている。

自覚なく子どもへの関心行き届かず?

 親がスマホに夢中になり、子どもを無視してしまう「スマホネグレクト」という言葉が数年前から使われるようになった。「愛着障害」(光文社新書)などの著書がある精神科医で作家の岡田尊司(たかし)さん(57)は、無自覚のうちに子どもに関心が行き届かなくなる親が増えていると危惧する。

 スマホは今や経済や産業を支える基盤。スマホネグレクトは仕事に欠かせない「必要悪」と捉えられがちで、親に育児放棄の意識が芽生えにくい。変化が目に見える薬物やギャンブル、アルコールなどの依存症と異なり、スマホ依存はじわじわと社会をむしばんでいると岡田さんは指摘する。

誰でもしてしまう軽度のスマホネグレクト

 授乳時にも赤ちゃんではなくスマホを見ていたり、子どもが話し掛けているのにスマホに気を取られて上の空だったり。岡田さんのクリニックにも、こうしたことを気にした母親が受診に訪れる。誰でも軽度のスマホネグレクトをしてしまい得るという。

 親子の信頼関係を築くためには、親は子の目を見て気持ちを込めて答えることが重要だ。そうでないと、子どもに周囲の人に愛着を感じられない「愛着障害」が生じる恐れがあると岡田さんは説く。愛着障害が起きると社会性を欠いたり、安心感を得にくくなったりする上、周囲とのコミュニケーションの不足が脳の発達に影響することもあるという。

 岡田さんは「共感する力が乏しい大人が増えると、自分の親が年老いても無関心で手をさしのべない人が多い社会になるかもしれない。親子を含む人間関係は今よりもっと希薄になり、社会の支え合いが崩壊しかねない」と警鐘を鳴らす。