SNSを介した性犯罪被害が心配 禁止や規制では防げない 「誰と、どうつながるかが重要です」〈性教育ビギナーズ〉

(2020年8月11日付 東京新聞朝刊に加筆)

 夏休み。子どもがスマホなどでインターネットや会員制交流サイト(SNS)につながる機会が増えそうです。わが子を、ネットを通じた性犯罪から守るにはどうしたらいいか。日本思春期学会理事で、ネット環境に詳しい宮崎豊久さん(50)に聞きました。

宮崎豊久さん

ルール決め、フィルタリングは必要…でも「これをしたら大丈夫」はない

 ―ネットに性の情報があふれ、子どもも簡単にアクセスできるのが不安です。

 今の子どもたちは生まれた時からネット環境が身近にある「スマホ世代」。動画投稿サイト「YouTube」を幼いころから見ている子も少なくありません。

 IT業界で日本への(有害サイトを制限する)フィルタリング技術の導入や、児童ポルノの調査分析をしてきた経験から、性教育の講演で話すことがあります。「性犯罪に巻き込まれないために何をすればいいか」といった保護者からの質問も多いですが、残念ながら「これをしたら大丈夫」ということはありません。

 答えとしては、①親子でルールを決める②フィルタリングは必ずする③時間管理をする④有害な情報を見たら親に伝える-などが言われます。たしかにこれは最低限、必要です。しかし、それでもトラブルは防げない。トラブル時にどう対応すればよいか、日頃から子どもと話すことが必要です。

 ―子どもをネットから切り離すというのは、現実的ではないですね。

 規制や禁止をしても、子どもの悩みやトラブルそのものが減るわけではありません。

宮崎さんが講演などで紹介する「ハイリスクアプローチ」の図(宮崎さん提供)

 以前、ネットで子どもたちの悩み相談を受けていたことがあります。ネットは、一定のコントロールは必要ですが、生きづらさを抱える子どもたちが人とつながるツールでもあると実感しました。誰と、どうつながるかが重要です。

 親や先生に迷惑をかけたくないから、子どもはネットで知り合った人に相談します。なぜ家庭や学校以外に居場所を求めるのか。そこを考えないと始まりません。

宮崎さんが講演などで説明する際の図(宮崎さん提供)

「NO」と言える教育を 親子関係は子どもを「受容」することから

 ―性犯罪から身を守るために必要なことは。

 犯罪はいきなり起きるわけではありません。加害者が被害者と接触してトラブルになるまでに4つのステップがあると言われています。

「性的虐待が起きる4つの前提条件」(宮崎さん提供)

 防犯の観点から言えば、親ができることは、この最後にあたる「NO」と言える教育です。「NO, GO, TELL」、つまり、嫌だと言ってその場から逃げ、信頼できる大人に言うこと。防犯ブザーを持たせたり、知らない人の車に乗らないと教えたりすることもそうですね。

 でも、根底は親子の良好な関係を築くことも重要です。いい子でいなければと感じている子ほど、生きづらさを抱えていることに周りが気付きにくい。目の前の子どもを「受容」し、一人の人としてコミュニケーションを取ることが大切です。

 でもこれも簡単ではありません。まずは子どもに求めることを親自身もできているか、考えてみてください。言いにくいことを他人に話すことの難しさに気がつくと思います。「信頼できる大人に相談しなさい」と言うわりに、親は相談相手を持っていない。親自身が誰とでもつながれるネットの特性を生かして、悩みをシェアしてみることから始めてもいいかもしれません。