俳優 福士誠治さん 厳しくも愛情豊かな母「あんたが20歳になるまでは私の責任」

佐橋大 (2024年1月7日付 東京新聞朝刊)

家族について話す俳優の福士誠治さん(市川和宏撮影)

男3人の家族で、母は大きな存在

 父(74)、母(76)と、兄(45)がいます。男3人の家族の中で、母の存在は大きいですね。ちょっと天然が入っています。そんなところに、父は多分、ひかれたんだと思います。

 ずいぶん前、家族4人で久しぶりに焼き肉屋に行ったんです。注文すると、店員さんが火を付けますよね。母は、網が温まっているかを確認するため、直接手で触って「あちっ!」となった後、僕ら男性陣に「お肉焼けるわよ」と。これは衝撃的な事件でしたね。体張りすぎでしょと。

 子どもの頃は、家族で外食することは、本当になかったです。それが当たり前だと思っていましたが、大人になるにつれ、3食欠かさず出してくれた母のすごさを知りました。母は「あんたが20歳になるまでは私の責任。意地だ」と言っていました。

 厳しくもありました。夕方の決められた時間までに家に帰っていないと、鍵をかけられて閉め出されました。「帰ってきたよ」と言っても、母は「誠治は今、います!」と言って入れてくれない。ルール通りなら、家にいる時間でしょ、ということですよね。ただ、物騒なニュースもあり、家の外に子どもを放置して叱るというのも、どうなのかと思ったらしく、途中から閉め出しはなくなりましたね。

「母ちゃんは、幸せにならないと」

 父はゴルフ場に勤めるサラリーマンでした。僕が20歳のとき、会社近くの父行きつけの飲み屋に誘われて飲んだのですが、「この人はどんなに酔っぱらっても人の悪口を言わない人だ」とママや常連さんが口々に言って、誇らしく、うれしかったのを覚えています。おやじに肩を貸してタクシーで帰る時、おやじが「母ちゃんは、幸せにならないといけないんだ」と言っていたのも印象的です。母のことがすごく好きなんですね。でも、家では「こんなに遅くまで何をやっているの」と母に叱られ。世の中うまくいかないんだなと思いました。

 芸能の仕事をすることに関しては、母は心配していましたが、朝ドラなどでテレビに出ると、「仕事ぶりの分かる職業だ」と気付いたらしいです。「意外と親孝行な職業だ」と言っていました。楽しみが増えたとも。そういう考えに変わってくれたんですね。

 舞台は基本的に、見に来てくれます。10年ほど前に、父が病気で倒れてからは、来られないこともありますが、「2回見たら変わるわよ」とか「本当は3回見るといいわね」とか言っています。息子が犯人役だと気分は良くないそうです。感情移入するから。

 今度の舞台は愛の物語。優しさを継承し、良いことを進化させ、次の世代がより生きやすくしていく。これは、親の世代が子どもたちにやってくれたことと一緒だと思います。愛とは何か、考えてもらえたらうれしいです。

福士誠治(ふくし・せいじ)

 1983年、川崎市出身。2006年、NHKの連続テレビ小説「純情きらり」の相手役を好演。その後、映画、舞台でも活躍。2月11~24日、東京芸術劇場(東京・池袋)での舞台「インヘリタンス-継承-」では主演を務める。同作は、3世代のゲイの生きざまから、愛とは何かを問いかける大作。