児童養護施設での虐待を取材して 「記事を見て、訴えていいんだと思った」子どもの声に励まされ
石原真樹 (2019年12月27日付 東京新聞朝刊)
児童虐待というと、東京都目黒区の船戸結愛ちゃん=当時(5つ)=や千葉県野田市の栗原心愛ちゃん=同(10)=が亡くなった事件などを思い浮かべるかもしれない。ともに親から虐待されたケースだが、私が今年取材したのは、虐待された子どもをケアするはずの児童養護施設で起きた虐待だった。
施設のベテラン職員が少女に暴言「ブス」
2月に報じたが、世田谷区の児童養護施設では、少女がベテラン職員から「ブス」などと暴言を受けていた。施設長は取材に対し「都に虐待認定を受けたのは事実。申し訳ない」と認めたものの、身体的虐待は否定。加害職員は体調を崩したとして退職した。
5月には、中野区の児童養護施設で複数の子どもたちが複数の職員から暴力や暴言を受けていた問題を取り上げた。この施設は高校生の入所者に「不純異性交遊をしない」などのルールを守らなければ施設を出るとの誓約書に、署名までさせていた。東京弁護士会が虐待として問題視した。
「このくらいで記事に?」と言われても
子どもに寄り添うはずの職員が、なぜ虐待するのか。理由を探ろうと5~6月、関東の児童養護施設にアンケートをした。虐待が起きる背景について「職員に余裕がなく追い詰められているのでは」「第三者の目が入らないので、閉鎖的な環境になっている」などの意見が寄せられた。児童相談所の児童福祉司が新規の虐待案件に追われ、施設の子どものケアに手が回らない実態も浮かび上がった。
報じた2件とも、子どもが命を落とすような虐待ではない。施設職員の間では「このくらいで記事にされるなんて」とささやかれているという。しかし、虐待などつらい体験を生き延びた子どもが、やっとたどり着いた「最後のとりで」でふたたび虐待されたら、どれだけ傷が深くなるか。大人や社会を二度と信じなくなるだろう。
「記事を見て『自分がされたことを訴えていいんだと思った』と話す施設出身の子がいたよ」。今月、施設の子どもの人権を考える勉強会で、ある里親の言葉に励まされた。すべての子どもは大切な存在で、みんなで子どもの権利を守る社会にしたい。そう発信し続ける大切さを心に刻んだ。