福島の野菜、首都圏の親子に無料で届けます コロナ禍で苦境の家庭を支援 農家でつくるNPOが募金呼び掛け

鈴木久美子 (2020年9月23日付 東京新聞夕刊)
 新鮮な農産物を食べて元気になって-。新型コロナで経済的困窮に追い込まれた子育て中のひとり親家庭などに、福島県の農家がつくるNPO法人が寄付を募って、旬の野菜や果物などを無料で送っている。自らも原発事故の風評被害に苦しんだ農家の「困っている人がいれば助ける」という心意気が、首都圏を中心に全国で、苦境の親子のおなかと心をひととき満たしている。

段ボール箱で家庭に届く新鮮な野菜や果物。9月の果物はナシが入った

原価3500円分の食材を選ぶ 

 ナスにキュウリ、ジャガイモ、ナシ…。箱詰めされたのは、農家が丹精込めて育てた旬の味覚が中心だ。

 1箱あたり原価3500円分の食材を選ぶ。アスパラガスなど店ではちょっと高めの食材も入れる。「子どもと歓声を上げました」と反響もあった。「鮮度がよくておいしいものを食べてほしい。体も気持ちも強くなって」と福島県二本松市の農家、斉藤登さん(61)は話す。

斉藤登さん

首都圏中心に290世帯に送付

 このNPO法人は、「がんばろう福島、農業者等の会」。東京電力福島第一原発事故直後、斉藤さんら農家5軒が「風評被害を自分たちで克服しよう」と立ち上げた。当初はインターネットで地道に販売していたが、東京を中心に「福島を応援したい」という消費者に支えられ、直販にもこぎつけた。現在は県内の農家50軒超が参加している。

 そんな中、新型コロナウイルスの感染が拡大。雇い止めや無収入…。暮らしへの影響が見えてきた4月、斉藤さんらは「できることをしたい」と、子育て中の生活困窮家庭に無償で農産物を送ることにした。協力関係にあり、困窮家庭の学習を支援しているNPO法人キッズドア東北(仙台市)などを介し、コロナ禍で家計状況が悪化した家庭を募った。5月から食材の宅配を始め、9月までに首都圏を中心とした約290世帯に送り終えた。10月以降も継続する。母子家庭が多く、職を失って収入10割減の家庭も多いという。

野菜や果物の箱詰め作業をするスタッフ=いずれも福島県二本松市で (がんばろう福島、農業者等の会提供)

コロナ禍で、母子家庭の18%が「食事の回数減らした」

 送料など活動原資は「農業者等の会」が運営する販売サイト「里山ガーデンファーム」を通じた1口1000円の募金と企業の助成金を充てている。募金と助成金は引き続き求めている。

 コロナ禍中の母子家庭の食事については、NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」が7月、全国の約1800人の母親から回答を得た調査から、18.2%が1日の回数を減らし、49.9%が炭水化物のみが増えた、とある。

 キッズドア東北の対馬良美さん(39)は「食料支援は、日持ちする缶詰やレトルトに偏る上、集積所に取りに行く形が多い。新鮮な野菜が家に届くのは喜びで、前向きになれる」と話す。

 「お金がある人も貧乏な人も、同じように食べられる社会であってほしい」と願う斉藤さん。「本当は国が仕組みをつくってやることだと思うが、それまでは募金や助成金を集めて、続けていく」