困窮する子育て家庭に「おむつ宅配便」毎月届けて悩み相談も 川口市の子ども食堂が形を変えて支援

飯田樹与 (2022年4月20日付 東京新聞朝刊)

母子におむつなどを届ける添田代表=川口市で

 新型コロナウイルス感染拡大で子ども食堂の活動が制限される中、形を変えて子ども支援に取り組む団体がある。川口市のNPO法人「こどもの居場所づくりinかわぐち」は、生活に不安を抱える子育て家庭におむつを宅配しながら、悩みを聞いて必要な支援につなげている。代表の添田朋子さん(63)は「コロナ禍で生活の基盤が揺らぎ、家族丸ごとの支援が必要となる中、子ども食堂で築いたつながりを何とか保ちたい」と話す。

子どもの成長を共有し、孤独感を緩和

 「大きくなったね。本当にかわいいわねぇ」。今年2月、おむつ2パックを届けた添田さんは、訪問先の母親(44)に抱かれた1歳3カ月の男児を見て相好を崩した。母親も「いってらっしゃいとか、最近できることが増えてきたの。お姉ちゃんもお兄ちゃんも遊んでくれたり、家事を手伝ってくれたりしてね」と楽しげに応じた。夫からのDV(家庭内暴力)に苦しみ、子育てに孤独感を抱えていたという母親は「今は子どもたちの成長を共有してくれる人たちがいて、ありがたい」とほほ笑んだ。

 同団体は川口市内で多い時に月3回、子ども食堂を開いていたが、コロナ禍で2020年春から秋にかけて中止が続いた。この間、雇い止めなどで家計がさらに苦しくなった家庭もあり、添田さんは「家庭という基盤がぐらぐらだと、子どもが安定した生活ができない」と気付いた。

必要なら公的支援につなげて虐待防止 

 子どもの食事や学習の機会だけでなく、家族丸ごとの支援が必要だ―。そう考えていた時、子ども食堂の常連で3人の子を持つシングルマザーの妊娠が分かった。新しい父親と子どもたちはうまくやっていけるのか。相談相手がおらず、1人での子育てで社会から孤立しないか。おむつやミルクといった育児の必需品を届けることで、つながり続けることを思い付いた。

荷室いっぱいにおむつなどを積んで配達する車=川口市で

 「おむつ宅配便」の利用対象は、経済困窮や親の精神不安などで子育てが懸念される、乳児がいる家庭。川口市保健センターや民間病院などを通じて支援が必要な家庭とつながり、おむつやミルクなど2500円相当のベビー用品を月に1回、自宅に届けている。赤ちゃんと対面して安全を確認しつつ親の孤立感を和らげ、必要に応じて公的な支援につなげることで虐待の芽も摘んでいく。

 利用家庭は2020年10月開始時の5世帯から、今では約30世帯まで増えた。一方で子どもが続けて生まれたり、小学校入学間近でもおむつが取れていなかったりと、転居したケースを除くと利用を終えた家庭はまだない。助成金と補助金が中心の活動資金には限りがあり、個人情報を扱うため宅配スタッフを簡単に増やせないなど課題もある。

行政職員だと警戒されて…民間の意義

 同団体よると、同様の取り組みをしている埼玉県外の自治体はあるが、民間団体が実施する例はないという。行政職員が訪問すると「何か注意されるのではないか」と警戒されるケースも少なくないといい、添田さんは民間の立場だからこそ家の扉、心の扉を開けてもらいやすいと感じている。

 何度もおむつなどを届けるうちに、子育ての悩みや生活の不安を打ち明けてくれるようになったことも。添田さんは「親を助けることが子どもたちを助けることになる。こうした取り組みが全国に広まれば」と願っている。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年4月20日