渋谷を落書きされない街に 障害のある子も一緒に「インクルーシブ・アート」 SDGsにちなんだ壁画が完成
都バス営業所の壁「消しては描かれ」
交通量の多い明治通りから少し外れたところにある営業所。その壁には約200メートルにわたり、アルファベットや花のような模様の落書きが今年1月ごろまで描かれていた。東京都交通局の島崎健一さんは「消しては描かれ、の繰り返しで困っていた」と話す。
地域で壁を大切にしていると印象づければ、落書きされないのでは-。こんな考えで今春、一般社団法人「CLEAN&ART」代表理事で壁画アーティストの傍嶋(そばじま)賢さん(43)らが長さ100メートルの壁画制作を始めた。
障害のある人も参加できる「インクルーシブ・アート」として取り組もうと、企画段階から渋谷区障害者団体連合会が参加。デザインは「誰ひとり取り残さない」というSDGsの理念から、17の目標にちなんだ17色の三角形や四角形で構成した。
10月初旬には、障害児や地元の親子ら約100人が参加して色塗り作業。水色や黄色など明るい色調の壁画が、少しずつ形になってきた。その後、傍嶋さんらが仕上げ作業を進めている。
落書き「地域の治安悪化にもつながる」
2020年度から渋谷区の事業で落書き消し活動をしてきた傍嶋さんによれば、いったん落書きされると、近くに描き足されるなどして増えていく傾向があるという。「落書きは、壁などの所有者に迷惑がかかるだけでなく、地域の治安悪化にもつながる」と傍嶋さん。
そこで今回の取り組みには、地元の人を含めて広く参加を呼び掛けた。傍嶋さんは「いろいろな人が関わり、地域を良くしていこうというのはSDGsの17のゴールが目指すところと同じ。アートの力で明るく安全な街になれば」と期待している。
渋谷区が対策強化 「アートか否かではなく、違法か合法かの問題」
渋谷区は昨年度から「落書き対策プロジェクト」を開始し、対策を強化している。「落書き通報受付センター」を設け、区が率先して消去、2024年3月までに落書きゼロを目指すという。昨年度は計約1億円をかけて、計319件の落書きを消したという。
今年6月には、区内の高架下にあった「鉄腕アトム」の絵を区が消すと、SNSなどで惜しむ声が上がった。フランスのアーティストが描いたとされ、芸術的な価値があるという意見もあったが、区環境整備課の青木正樹さんは「所有者の許諾が無い限り、落書きであり、違法。許されない」と、今後も厳しく対応する方針だ。
壁画アーティストの傍嶋賢さんも「アートか否かではなく、違法か合法かの問題。地域の人は本当に困っている」と話している。