母と再婚相手の暴力、家出のたびにエスカレート 児相は親の言い分を信じ、虐待地獄を抜け出せず…〈「非行少女」だった私ー聞かれなかった声・上〉 

出田阿生 (2023年5月20日付 東京新聞朝刊)

生まれたばかりの第2子を胸に抱くしちゃさん

 家の中は地獄だった。親の虐待を訴えても、信じてくれる大人はいなかった。逃げ出した路上では、体を売らなければ生きられなかった。「非行少女」と呼ばれ続けた埼玉県内の主婦しちゃさん(22)=仮名=には、伝えたいメッセージがある。「非行と決めつける前に、子どもの声を聞いてほしい」。社会に向けて発信していこうと今春、ドキュメンタリー映画に出演。彼女の壮絶な体験と思いを聞いた。

兄弟の中で自分だけ食事を抜かれる

 「一度はギャルメークやめようと思ったけど、育児ちゃんとしてるし、好きな格好してもいいかなって」。埼玉県南東部の商業施設で、しちゃさんはそう笑いながら、ベビーカーの1歳の長男をあやした。胸には生後1カ月半の長女がすやすや眠る。料理が得意で、夫(25)と出会えたのが「人生で一番の幸せ」と話す。

 穏やかな生活にたどりつくまでには、壮絶な過去があった。育ったのは関東の海沿いの都市。小学校に入ると、母と再婚相手の義父の暴力が始まった。「箸の持ち方が悪い」「背筋が曲がってる」…「100くらいあるルール」を守れないと、手を出す口実にされた。

 「ガリガリにやせた小学生だった」。兄と妹がいたが、自分だけしょっちゅう食事を抜かれていた。しちゃさんは「家庭内いじめってあるんですよ」と苦笑いする。「給食だけでは足りなくて、空腹のあまり食べ物を万引したこともある」

通報も「しつけだった」ごまかされ

 行政につながる機会はあった。泣き叫ぶ声や両親の怒鳴り声、大きな物音で近隣住民に何度も通報されたからだ。だが「親は外づらが良くて。しつけが厳しすぎたとごまかされてしまった」。傷痕が残らないよう、グーでは殴らず平手打ち。傷が目立つと、治るまで外出や登校を禁じられた。

 小学5年で、「知的障害を伴わない高機能広汎性発達障害」と診断された。平均だと100ほどの知能指数(IQ)が、上位数%とされる130前後もあった。発達障害を理由に、中学は特別支援学級へ。学力は高かったので、授業は普通学級で受けた。今度は「障害者のくせに勉強ができて生意気だ」といじめが始まった。

兄や義父から性的接触 自傷行為も

 学校にも家にも居場所がない。夜は危険を避けるため家を抜け出した。理由は「2歳上の兄が布団に潜り込んでくる。義父はスカートをめくったり、脱衣場をのぞきに来たり。本当に気持ち悪くて」。報復が怖くて母には言えなかった。公園の遊具の下で一夜を過ごしたり、ひたすら歩いたり…。「でも他人から見たら、無断外泊とか深夜徘徊(はいかい)なんですよね」。刃物で腕を切ると気持ちが落ち着いた。自傷は「他人に迷惑を掛けない息抜き」だった。

 反抗や家出の度に、親からの暴力はエスカレート。中学の女友達の家に逃げていた時、乗り込んできた義父に投げ飛ばされた。目撃した友達も震え上がり、警察に通報してくれた。パトカーが来て、児童相談所に連れて行かれた。一時保護所へ入り、数カ月過ごした。だが、その間に職員と面接した母が「娘が反抗的で、厳しくしつけすぎた」と釈明したため、家に戻された。中学時代はその繰り返し。「児相の職員は同情してくれたけど、結局は親の言い分を信じたんです」

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年5月20日