助けを求めることさえできない 養育環境にハンディのある子の声なき声を聴くために〈少子化時代のホンネ③〉
昨年4月にこども家庭庁が発足して1年。次々と打ち出される子育て支援策は、子どもを育てる人たちの負担感の軽減や、「子どもを産みたい」と思える社会につながるのでしょうか。3回にわたって考えます。最終回の今回は、「子ども・若者の声を聴く」取り組みから「遠いところにいる」と感じている20歳の大学生の思いを伝えます。
①対策のスタートラインは?(3月20日公開)
②子育てのロスジェネ(3月27日公開)
③声すら上げられない(このページ)
「結婚や子ども 自分からは望まない」
「結婚や子どもを、自分から望むことはないと思う」。今月、20歳で東京都内の私立大に進学したレンさん(仮名、男性)は静かに話す。安らげない家庭で育ち、父親もいなかったため、自分が親になることをうまく想像できないという。
母親の病気やアルコール依存症、暴力に苦しんできた。母親からポットの熱湯をかけられ、児童相談所に一時保護されたのは、高校2年の時。その後、家庭に居場所のない15~20歳の子どもたちが暮らす茨城県の自立援助ホームへ。通信制の高校に通いながら、自活の道を模索してきた。
「もっと早く、誰かに助けを求めれば良かった」と今は思う。でも、「声を上げることすら思いつかなかった。近くに『困った』と言える相手がいなかったから」と振り返る。
同じような環境で育った仲間と知り合い、取り組むようになったのが、意見を伝えることが難しい子どもたちの声を聴き、代弁する「子どもアドボケイト」の活動だ。困った時に「困った」と言える相手になりたいと思うようになった。
レンさんは、アルバイトをしながら、3年かけて約200万円を準備。今年2月、自立援助ホームを出て、一人暮らしを始めた。大学では奨学金も利用して、社会福祉を学ぶ。
サポートの得にくさが大きなハンディに
養護施設を巣立った後、進学や就職に苦労する人は少なくない。そんな若者たちを児童養護施設職員として目にしてきた菊池まりかさん(36)は2017年、一般社団法人「Masterpiece(マスターピース)」(千葉県)を立ち上げた。シェアハウスの運営や食料支援をするほか、若者たちが集って語り合う「ユースサロン」も開いている。レンさんも、ここに通い、目標を見つけた。
「頼れる親がいないことによるサポートの得にくさは、将来に向けて安定した生活の基盤をつくる上で大きなハンディになる」と菊池さん。「施設退所後の若者が抱える困難を理解し、その声に耳を傾け、支えることが大事」と強調する。
こども家庭庁も昨年、子どもや若者の声を反映させようと、「こども若者★いけんぷらす」を始めた。サイトから氏名や住所などを登録してもらい、小学生~20代の参加者が対面やオンラインの「いけんひろば」に集まる。「生きづらさや自殺したいという気持ちになったことがある人に必要な支援は」「安心してこどもを産み育てられるために、どんな社会になってほしいか」といったテーマで、自由に意見交換できる。
ただ、レンさんは「僕みたいな環境で育ってきた人には参加のハードルが高いし、そもそも声を上げようとすら思えない状況の人もいる」と言う。
「相談しても仕方ない」諦めてしまう子
一般社団法人「子どもの声からはじめよう」(東京都)代表の川瀬信一さん(36)も「困難の渦中にあって声を上げられない子ども・若者の声をすくい上げ、実際に制度や政策に反映していく必要がある」と話す。
今、レンさんは「アドボケイト」の活動で毎週、児相を訪問する。遊びを通して信頼を寄せてくれる小中高校生から、日常の困りごとや将来の希望がポロッとこぼれることがある。
「相談しても仕方ない」と声を上げずに諦めてしまう子が多いからこそ、声なき声に耳を澄ませようと思う。「どんな子も幸せな未来を描き、前向きに歩んでいける社会にしたい」と一歩を踏み出す。
=終わり。①は3月20日、②は3月27日に掲載しました。