虐待された子どもの6割がSOSを出さない理由 被害の自覚がない、親が捕まるのが心配… 声を上げやすい環境をつくるには?【虐待防止月間】

(2023年11月22日付 東京新聞朝刊)
 虐待を受けていても、周囲にSOSを発信しない・できない子や、発しても適切な対応を受けられない子は多い。虐待を受けているとの自覚がなかったり、助けを求めようと思わなかったりするケースが6割との調査結果もある。今月は国の児童虐待防止推進月間。専門家は「大人が『子どもの権利』を理解し、子どもに小さい頃から伝える必要がある」と強調する。
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「親から虐待を受けても、『私が悪いから』だと考えてしまっていた」と振り返る、やぶうちゅうさん=東京都内で

頑張っている子ほど受け入れてしまう

 「物心ついたときから虐待を受けていたけれど、父親が怖くて、外に助けを求めることなんてできなかった」。エッセー漫画家・やぶうちゅうさん(37)=大阪府出身、東京都在住=は、声を上げられなかった当事者の一人だ。

 食事を残した、飲み物をこぼした。そんなささいなことで、父親から蹴り飛ばされたり、母親から夜中まで罵倒されたりした。「私が悪いから」と思っていたが、小学3年生のころ、「うちの家はおかしいんじゃないか」と思い始めた。

 「外には言っちゃいけないことが、うちでは起こってるんだ」とはっきり自覚したのは、父の暴行で母がけがをした時。病院に行こうとした母に、父が「俺にやられたって言うなよ。自分で倒れたって言えよ」と告げた。「外に言ったらどうなるんだろう。きっと私も、お父さんからボコボコに殴られるんだろうな」。そう考えると、怖くてSOSを発することができなかったという。

 顔の傷に教師が気付き、児童相談所の一時保護につながったのは高校生の時。「逃げ出したくても、頑張っている子ほど家庭の状況を受け入れてしまうことがある。子どもに声を上げて、と求めるのは酷です」

「相談する意思を持っていない」子も

 こうしたケースは珍しくない。NPO法人・ひだまりの丘(名古屋市)が中心となり、2020~2023年度、10~40代の児童虐待の被害者計52人からヒアリングした調査で、子ども自身が「『虐待』だと認識していない」ケースは58%。さらに別の設問では「家庭外の人へ相談する意思を持っていない」との回答が60%に上った。

 調査では、「自分をどうこうするとか、誰かに相談するとかいう意識は全くなく、とにかく母を怒らせないようにしないといけないとか、自分がどう対応したら母を怒らせずに済むかばかり考えていた」「本当のことを言ったら、父が捕まると思っていた。自分自身が父に依存していて、父がいなければ生きていけないと思っていたし、父がいなければ母や弟妹も暮らしていけないし、幼い弟妹から父を奪ってしまうのも嫌だと思っていた」という声も聞かれた。

 同法人理事長の蛯沢光(あきら)さん(37)は「集まった当事者の声を虐待の早期発見、早期介入のための制度設計につなげたい」と話す。

図表 児童虐待の被害者の声「本当のことを言ったら、父が捕まると思っていた。父がいなければ生きていけないと思っていたし、幼い弟妹から父を奪ってしまうのも嫌だった」「学校から通告されて市職員が面会に来たが、一切虐待のことは話さなかった」

「子どもの権利」社会に根付く過渡期

 子どもがSOSを発し、大人がキャッチして守るには、どうしたらいいのか。

 こうした子どもたちの居場所づくりに取り組む団体、CVV(Children’s Views and Voices、大阪府)副代表の中村みどりさん(40)は「子どもが虐待を自覚できず、大人が気づけないのは、『子どもの権利』への意識が育っていないことが背景にある」と指摘。「今は、この意識が日本社会に根付く過渡期」とした上で、「子どもがSOSを発しやすい環境をつくるのは大人の役目だ」と訴える。

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「子どもがSOSを発しやすい環境を整備するのは大人の役目」と話すCVV副代表の中村みどりさん

 例えば、子ども向けの相談先を記載したカード。学校や園で配られるが、「相談した後どうなるのか、その子の意見はどのように取り扱われるのかなど、相談前後の流れを授業で伝えるといった丁寧なフォローがあると安心して利用できる」。

 子どもの声を聴き、必要に応じて代弁する「アドボケイト」と呼ばれる支援者の活動についても、中村さんは「今は児童養護施設などが中心だが、学校や地域の子ども食堂のような場所にも広がっていくといい」と指摘する。

子どもの権利

 1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」は「あらゆる暴力からの保護」「意見を表し、その意見が尊重される権利」などを定める。日本は1994年に批准し、2016年にはこの条約を基本理念とする改正児童福祉法が成立した。

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