「育児なし」「旧OSパパ」…イクメンの反対語を考えてみてわかった、今の日本に巣くう問題
「反対語が広まれば『なりたくない』と思うのでは」
「イクメン」は、大手広告会社の社員が2000年代に、かっこいい男性「イケメン」と育児を掛け合わせて生み出した造語だ。10年に当時の長妻昭厚生労働相が「はやらせたい」と発言。男性の育児休業取得率アップを目的に厚労省が「イクメンプロジェクト」を始め、同年の新語・流行語大賞でトップテンに選ばれた。
疑問を寄せた都内の女性は今春、病院勤務の薬剤師を退職。契約社員の夫が4月から職場が遠くなり、早朝出勤、帰宅も遅くなるため、長女(4つ)の保育園の送り迎えができなくなったことも理由の一つという。
ある日、長女に「パパはどうして帰ってこないの?」と聞かれ、「お仕事だからしようがない」と言いながら、もやもやした。保育園のママ友に「イクメンを認めない会社が悪いんだよね」と言われ、ハッとした。「イクメンの反対語が広まれば、『それにはなりたくない』との意識が芽生えるのでは」と考え、投稿したという。
「男性が稼ぐ」意識の改革=OS入れ替えが必要です
イクメン推しの厚労省に問い合わせると担当者は「反対語は定めていない。パッと思い付かないですね」。
インターネットでイクメンの反対語を検索すると、「育児なし(意気地なし)」「ゼロメン」なる言葉も。考えてみた人はいるようだが、定着はしていない。
父親育児を支援するNPO法人「ファザーリング・ジャパン」の安藤哲也代表理事(56)は「パパを責めたくはない」と前置きしつつ、反対語に「旧OSパパ」を提案。OSとは、コンピューターの基本ソフトのこと。イクメンが増えない理由は「育児は母親がやるもの」「男性は稼ぎ手」という社会の意識が根強いこと、職場が父親の育児を前提にしていないことだという。「意識改革=OSの入れ替えが必要」と説明する。
キャッチ―な言葉に頼るより、社会を変える支援を
子どもの誕生時に、11日間の「父親休暇」が制度化されているフランス。長年、同国に住むジャーナリストの高崎順子さん(45)は「個人の問題ではなく、社会の問題としてとらえるべきだ」と指摘。反対語は「あえて言えば、父親妨害社会」と話す。フランスでは父親休暇の制度化で、企業や個人の意識が一気に変わったという。
男性学が専門の大正大心理社会学部の田中俊之准教授(44)は、イクメンという言葉の登場で日本の子育ての問題に焦点が当たったことは歓迎しつつ、「社会を変えたいなら、キャッチーな言葉に頼らない方がいい」と話す。「問題の背景には性別役割分業があり、男女の賃金格差がある。この構造を変えるためには国や企業が女性が就業を継続できるようにより支援すべきでしょう」