子どもの連絡忘れ、釣り銭の手間…「学校だけ昭和のまま。おかしい」素朴な疑問で改革 集金をスマホ決済にしたら保護者も先生も楽になった
川口市で導入進む
学校の集金をキャッシュレスにすれば、保護者も先生も楽になる-。教材費や校外学習費などの「学校徴収金」の支払いに集金・決済の業務支援サービスを利用する試みが、埼玉県川口市で広がっている。子どもが現金を持ち歩かずに済み、保護者はスマートフォン操作で支払いが完了。長時間労働が問題化する中、教職員の負担は大幅に減る。すでに市内52の小学校のうち10校が導入し、好評だという。
LINEで保護者に請求 紛失も防げます
2022年春、川口市内で最初にサービスを導入したのは市立前川小学校だ。事務主査小沢篤さん(41)が中心となり、「enpay(エンペイ)」というサービスを選んだ。エンペイを使うと学校からの請求がLINEで保護者に届き、保護者は請求額を確認してクレジットカードや電子マネーのPayPay(ペイペイ)などで支払う。
川口市は外国籍の子が多く口座を作れない保護者もいるため、払込用紙でコンビニの現金払いもできる利点が決め手となった。
保護者からは「自分のタイミングで手軽に支払える」「子どもの連絡漏れで支払いを忘れたり、紛失したりするトラブルが防げる」「現金を用意する手間が省ける」と好評だという。
働き方改革に効果 そもそも誰の業務?
さらにサービス導入は「学校の働き方改革」に大きな効果があった。前川小の近藤百合校長は「これまでかかっていた膨大な手間が省けたので、学校本来の業務に集中できるようになった」と歓迎する。「新年度はいつも封筒を作るところから始まった。夜遅くまで教室でお金を数え、金融機関に大金を入れるまでは緊張の連続。釣り銭を保護者に返すのも一苦労だった」
前出の小沢さんが導入を思い立ったのは「クレジットカードや電子マネーが日常化したのに、学校だけ昭和のままなのはおかしい」という素朴な疑問からだった。現在、エンペイのサービス手数料は保護者に説明した上で暫定的に負担してもらっているが「公的負担の検討が必要だと思う」とする。サービスを提供する株式会社エンペイの金山健介執行役員は「全国的に学校からの問い合わせが増えている」と語る。
中央教育審議会(中教審)は「学校の働き方改革」として、学校徴収金の徴収や管理は「基本的には学校以外が担うべき業務」とする。文部科学省の担当者は「キャッシュレス決済サービスの導入も含めて、市町村教育委員会が主導して効率化に努めてほしい」と話す。だが、文科省による教育委員会の2023年度調査では、教職員が関与しない方法を取るのは全国で45.3%にとどまる。
手数料は自治体の教育予算にすべき
◇教育研究家・妹尾昌俊さんの話
学校徴収金については現金を紛失するトラブルや教職員の重い負担が指摘される中、旧態依然とした学校も少なくない。口座引き落としが増えているが、督促などの負担は残る。多大な時間や労力をかける教職員の人件費と比べれば、外部サービスを使う方が合理的だ。
課題はサービス利用の手数料だが、学校の負担軽減のためなのだから本来は自治体が教育予算で負担すべきだと考える。今や保護者の大半がスマホを持っており、導入の環境は整っている。各自治体は、業務の効率化を図るための検討を進めてほしい。
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