高校の金融経済教育ってどんな授業? ゲームで投資を疑似体験…本来の狙いは「お金で困らない知識」 スタート2年、現場は手探り

中沢佳子 (2024年5月8日付 東京新聞朝刊)
 文部科学省の学習指導要領に基づいて、高校で株式や債券など金融商品の特徴を教える授業が始まって2年がたちました。生涯を見据えた資産形成を学ぶ金融経済教育の一環ですが、「投資教育」のイメージは根強いようです。

チームで話し合いながら、ゲームをする生徒たち。人生のさまざまな出来事を疑似体験しながらお金の備えについて学ぶ=相模原市南区の神奈川県立神奈川総合産業高校で

金融経済教育とは

 金融や経済の仕組みと社会とのつながりを理解するため、2020~22年度に全面実施になった学習指導要領で、学習内容を拡充。小学校の家庭科、中学校の社会科と技術・家庭科、高校の公民科と家庭科で扱う。高校では生活設計や家計管理に加え、老後の備え、病気や失業などのリスク対応とともに、資産形成の観点から、預貯金や民間保険、株式、債券、投資信託など金融商品の特徴も学ぶ。

投資、保険…65歳での総資産を競う

 「やっぱ、株は海外だよ」「若いうちは保険いらないよね」。相模原市南区の神奈川県立神奈川総合産業高校の教室に、そんな言葉が飛び交う。キャリア教育として取り組む「人生とお金のプラン」の授業。定時制3年の17~20歳の29人が、人生の出来事を疑似体験しながらお金の備えを学ぶ無料ゲームアプリを使っている。

 講師は高校生の就職支援会社「ジンジブ」のキャリア教育支援担当、梅原卓也さん(29)。まず、結婚や子どもの教育などにかかる平均額を紹介し「早くから備えれば結婚し、子どもを持つ人生を楽しめる。ライフプランを立て、働いて稼ぎ、貯蓄や投資を考えるんだ」と助言した。

授業で使った無料アプリ「ナビナビ資産運用デザインゲーム」の画面

 生徒は4人1チームでゲーム開始。「25歳社会人」の設定で、医師や会社員など6つから職業を選び、所得を預金や国内外の債券、株式などに振り分け、生命保険に入るかも決める。5~10年ごとに結婚や出産、昇進、自宅購入などのライフイベントが起き、投資比率も見直す。最終的に65歳時の総資産を競った。

NISA開設した生徒「不安しかない」

 ある男子生徒(18)は「将来のお金なんて考えていなかった。今から備えなくては」と語る。18歳になり早々に少額投資非課税制度(NISA)の口座を開設、月1000円の積み立て投資を始めた別の男子生徒(18)は「将来には不安しかない。結婚したいから、パートナーに迷惑かけないためにも資産づくりをしないと。起きうるリスクにどう対応したらいいか、直接教わる場は大事」と切実だ。

 中村光宏教諭(27)も「長生きするとお金もかかるというマイナス思考が多くの生徒にある。資産の築き方や投資のリスクとリターンなどの知識を養うのは有意義。お金のことだけでなく人生トータルで考える授業にしたい」とうなずく。ただ、金融商品になじみのない教員もおり、授業も手探り。「特定の教科より、総合学習のほうが教えやすいと思う」

「投資教育のイメージが強いが…」

 2022年に成人年齢が18歳に引き下げられ、ローンやクレジットカードの契約が可能になった。同時にお金に関する知識やトラブルを防ぐ判断力が求められ、金融経済教育の重みは増している。金融広報中央委員会の調査でも、学校で教えるべきだと考えるのは18~79歳で71.8%に上る。

 現状は金融機関による出前授業も目立つ。金融経済教育に詳しい愛知産業大の奥田真之教授(金融論)は「投資教育のイメージが強くなっているが、お金で困らない知識を身につけるのが本来の狙い。投資知識を教えるのも、人生の実現に必要な資産をつくる一環で、貯蓄以外の手段も検討できるようにするため」とくぎを刺す。その上で工夫の一つとして教科横断の取り組みを勧める。「例えば数学の複利の学習は投資利回りの計算につながる。社会の資本主義社会の学習で投資の仕組みを教えられる」

金融経済教育については、5月12日付東京新聞サンデー版大図解で詳報しており、こちらからお買い求めいただけます。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2024年5月8日