都知事選で考えたい教員不足 東京の公立小の実態は?「200件電話して見つけた代替教員が1カ月で退職」人手確保へあの手この手
心強い「アシスタント」が担任を補佐
午前8時半すぎ、江東区立第三砂町小の1年生の教室で、担任の安藤優主任教諭が児童の出欠を取る。後方ではエデュケーション・アシスタントの増子光世さんが、児童の連絡帳を確認していた。
1時間目は体育。増子さんは体育館へ移る28人の児童に付き添う。動かない子には「本をしまって。行こう!」。担任の安藤教諭と一緒に縄を回して大縄跳び。「せ~の!」と児童の背中を押すと「跳べた!」と笑顔が見えた。
4月から週4日、朝からの約8時間、4クラスある1年生の担任業務を補佐する。安藤教諭は「離席する子、トイレに行ったまま帰ってこない子、提出物を出さない子…。こうした子の対応を任せられるので心強い」と語る。
経験者採用枠の設置、メンター制導入
エデュケーション・アシスタントは東京都が教員の負担軽減を目的に、2022年度に江戸川区で導入した。2023年度に江戸川区のほか、墨田区、調布市、東久留米市、東村山市の5区市に拡大。本年度から全公立小1268校に1~3年生の担任補佐として配置できるよう、約47億円を予算化した。
都のホームページでは、「教員免許は不要」と案内している。採用は市区町村の教委が担い、業務内容は学校側が決める。人材が見つからず、配置できていない学校もある。
東京都教委は本年度、経験者採用枠の設置や、小学校の新規採用教員が先輩に相談できるメンター制度の導入など、教員確保策を拡充した。背景には、小学校での35人学級化などで必要な教員数が増える一方で、病気休職や退職者が後を絶たず、教員不足が常態化している現状がある。
昨年度内に「欠員」が160人に倍増
都教委によると、都内公立小の教員の「欠員」は2022年4月時点で約50人、2学期が始まる同年9月には約130人に増えた。昨年度は4月時点で約80人、9月に約140人、3学期が始まった今年1月時点では160人と倍増した。
代替教員らを探しやすくするため、昨年7月からは採用情報マッチング支援システムも導入した。都教育庁人事部選考課の石毛朋充課長は「教員を増やす、減らさない、負担軽減が3本柱。さまざまな方法で教員確保と働きやすい職場づくりを進めている」という。
面接後に音信不通 副校長が担任も
だが、現場の危機感は増している。都内の公立小の男性校長(50)は、教科ごとの担任制を進めて負担を減らすほか、学校ホームページで補助スタッフらを募るなど、確保に努めている。別の学校の副校長だった3年前、産休に入る担任教諭の代替が見つからなかった苦い経験が理由だ。
当時、代替教員として都に登録された「臨時的任用教員」名簿の片っ端から約200件、電話をかけた。定年退職した女性教諭が見つかったが、新型コロナウイルス禍のオンライン授業に対応できず、1カ月ほどで退職。求人に応募してきた40代男性教諭は、面接後に音信不通になった。保護者に説明して3カ月、自分で担任をしながら副校長の仕事をこなした。
東京都知事選では、教員の負担軽減などを掲げる候補もいる。「待っていても人は来ない。教育の向上のため、人材確保へのアンテナを高くしておかないと」と校長が語る。現場の願いは「子どもの教育に集中できる環境にしてほしい」だ。
教員不足
文部科学省の2021年5月1日時点での調査では、全国の公立小中高校などで計2065人の教員が不足。文科省は今年1月にも、各都道府県などに対応強化を要請した。東京都内の公立校では2023年4月時点の欠員が約80人。年度末にかけて増えて、2024年1月時点で2倍の約160人に。2023年度の新規採用教員3472人のうち、1年以内の退職者は169人(4.9%)と過去10年で最も多い。例年、教員の約1%が精神疾患で休職している。
◇文部科学省の「教師不足」に関する実態調査の結果はこちら
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