〈坂本美雨さんの子育て日記〉71・班長選挙に挑んだ娘の決意 一緒に公約を考えるはずが…

(2023年7月19日付 東京新聞朝刊)

出版して1年、私のエッセー本を照れながら抱えて

2泊の合宿 小2にして4回目の挑戦

 娘が小学2年生の合宿から帰ってきた。1年生の時より本人はずっと慣れており、2泊3日離れるのはむしろ母にとってのほうがいまだに挑戦。今回のハイライトは念願の班長として行けたこと。彼女の学校は1年生の時からクラスの班長を選挙で選ぶ風習があり、立候補者は公約を考えて発表する。娘はこれまで3回挑んで砕けていたが、4回目は絶対にがんばりたいということで、一緒に公約を考える約束をしていた。

 しかしいざ選挙を前に「もう書いたから、終わったら見せる」と言う。でも今回はみんなの心が動くようなスピーチを一緒に書こうって言ってたじゃない?と私、それでもかたくなに見せない娘。そんなやりとりをするうち、大人げなく意固地になってけんかになってしまった。これまで選挙に落ちてへこむ彼女を見るたびに私まで苦しかったからかもしれない。

 違う部屋で頭を冷やしていると、娘が入ってきて「自分で考えて、自分の力で受かりたかったの」と言った。自分が恥ずかしくなった。ごめんねと2人で涙し、選挙に挑んだ。そしてやっと!念願の班長になれたのだった。涙する子続出の熾烈な選挙で、すぐあとに保護者会で会った担任の先生はぐったりと疲れていたが、そんなに一生懸命になれる子どもたちがいとおしい。

 もともとお世話焼きっ子で家の外では妙に規律正しいところがある娘、今期の班長は合宿があるから責任重大、と気合が入っていた。みんなそろっているか、体調を崩していないか、きっといろいろなことに気を張っていたのだろう。帰ってきた時は再会を喜ぶエネルギーもわずか、というくらいヘトヘトに疲れていた。そして今回は、彼女が昨年末から肌身離さず持っているハリネズミのぬいぐるみの「ハリ」を家に忘れるという事件もあった。合宿の大荷物で頭がいっぱいで、最後に手に持つはずのハリが家のテーブルに置き去りになったのだった。

 普段の溺愛っぷりを思うと、心の支えと離れどれだけ心細いだろうかと想像し初日は憂鬱だったが、子どもは親が思うよりも強い、と自分に言い聞かせて過ごした。のちに、ハリがいないと気づいた時のことを聞くと、ショックだったけど泣かなかった、とのこと。友達に伝えて元気づけてもらったそうで、絆が育っていることにもじーんとした。そしてまた母は、娘の力を信じなきゃだめでしょと諭された気がしたのだった。

坂本美雨(さかもと・みう)

 ミュージシャン。2015年生まれの長女を育てる。SNSでも娘との暮らしをつづる。