〈坂本美雨さんの子育て日記〉80・「自分のためだけじゃなく一生懸命になること」 運動会で娘を通して疑似体験

(2024年6月19日付 東京新聞朝刊)

娘と一緒に友人の山の家に1泊

同級生を励まし、低学年生をケアし…

 娘の行事が何かと多い1学期、まずは一大イベントの運動会が無事に終わり、その後2週間ほど続いた火照りもやっとクールダウンしたこの頃。

 娘の学校の運動会は戸惑うほど本気なのである。1組対2組、縦割りで一丸となるため、自分が何組であるかがアイデンティティーとなっていて、結束も固い。

 娘は3年生になって参加競技もぐっと難しくなり、練習に余念がなく、ウルフルズの「ええねん」を替え歌した応援歌が家で四六時中ループしていた。

 ピカピカに晴れた本番の日は、娘は同級生を励ましたり低学年生をケアしたり、やることなすこといちいち成長を感じてまぶしい。そんな光景にグッと込み上げるものがあると同時に、自分がどこか親という生き物を演じているような感覚もあり、なんだかムズムズしてしまう。

 しかし、競技が進むほどにそんなことも忘れて渦にのみこまれていく。

 親もチームカラーの服を着て、手に汗を握り、わが子以外にも大声で声援を送り、一緒に跳び上がって喜ぶ。私が味わってきた運動会とは全く違っていて、1、2年生の時はいまいちピンときていなかったけれど、今年は涙が出るほどだった。

校庭にあふれる、ありとあらゆる感情

 全身で喜ぶこと、泣くほど悔しがること、身体的特徴も得意なこともバラバラな子どもたちが補い合うこと。最後の運動会になる6年生を優勝させてあげたいという下級生たちの気持ち。校庭にはありとあらゆる感情が爆発していた。

 なんてありがたいのだろう。自分のためだけじゃなく一生懸命になること、というのを部活などで経験してこなかったわたしは、娘を通して疑似体験させてもらったのだった。

 …と、学校行事もドタバタしつつ自分の仕事も地方ロケが多く、一つ一つ整理したり書き留めたりする時間が足りない。

 あぁちょっと止まりたい、という願望が膨らんでいたところ、娘と一緒に友人の山の家に1泊させてもらった。「ここにきたらなにもさせないよ」と言う家主。「とにかくお風呂に入って」という言葉に従い、自慢の檜(ひのき)風呂につからせてもらう。

 新緑の揺れをぼんやりと眺め、鳥の鳴き声をサラウンドで聴いているうちに、いつのまにか幸福感に満たされていた。家主がお風呂に入る時間がなくなるほど長風呂していたことを後日笑われるくらい、ひさしぶりの、幸せな指のシワシワを眺めていた。

【前回はこちら】79・娘とピースマーチへ 思いを表明することの大切さを感じてくれたら…

坂本美雨(さかもと・みう)

 ミュージシャン。2015年生まれの長女を育てる。SNSでも娘との暮らしをつづる。