受ける?受けない? 新型出生前診断 高校生たちが授業で疑似体験

三輪喜人
 お腹の中にいる赤ちゃんの病気の有無を調べる出生前診断。6年前には妊婦の血液で検査する新型出生前診断も国内で受けられるようになり、利用が広がっています。一方で、診断を受けるかどうか、結果をどう受け止めるのかといった重い課題に、個々のカップルが悩み苦しんだりするケースも多いと指摘されています。

 そんな中、青山学院高等部(東京都渋谷区)の1年生が1月、診断の仕組みや目的を知り、検査を受ける当事者の気持ちを疑似体験しました。高校生たちは何を感じたのでしょうか。

 「皆さんは検査を受けますか」

 この日の授業を担当したのは長崎大医学部の「遺伝教育プロジェクト」のメンバーです。遺伝教育を研究する同大准教授・森藤香奈子さんの問いかけに、生徒たちはまず自分の意見を固め、グループで話し合いました。妊娠した女性の血液に混じっている赤ちゃんのDNAの断片で、ダウン症、パトウ症(13トリソミー)、エドワーズ症(18トリソミー)の3つの病気を調べる新型出生前診断。生徒たちからは、「準備が必要だから受けたい」「子どものことは知っておきたい」「何があっても自分の子だから受けない」などの声が出ました。

 ある女子生徒は「産むのが前提なの?育てる自信がないし、生まれてきた子供もかわいそう」と打ち明けました。「将来働きたいからそうだよね…」と理解を示す生徒も。自分とは異なる視点が示されたことで、悩む生徒の姿もありました。

 授業では多くの生徒が、検査を受けることを選びました。模擬検査なので、くじで結果を判定します。新型診断の「陽性」の判定の精度は約90%。「不思議とショックを受けなかった。まだ確定したわけではないから」と「陽性」が出た生徒。それぞれの生徒が、検査を受けた、受けなかった理由や結果がわかった時の気持ちを、ノートに書き留めていきました。

 陽性となったら、確実な結果を得るために行うのが、羊水検査です。妊婦のお腹に針を刺して、羊水に含まれる胎児の細胞を調べます。精度はほぼ100%ですが、流産や破水のおそれもあります。

 羊水検査を受けると決めた生徒は、サイコロで結果を判定されました。その結果も陽性だった生徒は「結果が出るまで緊張した。正直、嬉しくは思わなかった」。同じく陽性だった別の生徒は「喜んだり、悲しんだりしてはいけないと思った」とノートに綴りました。生徒たちの感情が揺れ動いているのが伝わってきました。

 これまでの検査結果を受けて、最後に森藤さんが問いかけたのは「赤ちゃんとお別れしますか」という大きな問いでした。現在、国内の法律では、胎児の病気や障害を理由に中絶することは認められていませんが、母体の健康を守るためといった理由で行われていて、陽性だった場合の中絶率は高いのが実情です。

 問いかけの後、各グループには妊娠22週の赤ちゃんの絵が配られました。「体重は小さなメロンほどです。この頃になると、赤ちゃんに対する感情も芽生えてきます」との説明に、生徒からは「こんなに大きいと愛着湧いちゃう」との声も。

 今回の授業では中絶をするかどうかを決めることはせず、赤ちゃんと別れるときの気持ちや障害のある子どもが生まれたときの両親の気持ちにそれぞれが思いを巡らせました。

 授業の最後、森藤さんは生徒たちにこう伝えました。

 「遺伝的特徴の有無の組み合わせは膨大で、人間の多様性を生み出しています。あなたと同じ組み合わせを持つ人はいません。あなたの隣の人も同じように世界でただ一人の大切な人です。障害のあるなしは関係ありません。将来、今日の話を思い出して、自分なりの納得できる選択をしてほしい」

 「検査のことは初めて知ったし、考えたこともなかった。将来は自分だけじゃなく、奥さんとも一緒によく考えたい」(男子)、「検査を受けることはないかな。自分の子どもには違いないから。生まれてくる子供が長生きして欲しい」(女子)。授業後、生徒達からはこんな感想が聞かれました。

 今回授業をした長崎大医学部の「遺伝教育プロジェクト」は2005年から、小学生や幼児向けに遺伝について学ぶ講座を開いています。出生前診断についても近い将来赤ちゃんを迎える可能性がある世代の高校生たちに伝える場があれば、と考え、遺伝の専門的な授業を行いたいと考えていた青山学院高等部で実現しました。森藤さんのほか、遺伝カウンセラーや小児科医らも講師として生徒達に現場での体験を伝えました。

 高等部で生物を担当する武田右子教諭は「教科書では学べない内容で、授業が多くの生徒の人生に結びつくと思う。生徒も積極的に議論していた。こうした取り組みが広がってほしい」と振り返っていました。

コメント

  • 素晴らしい取り組みです。高校生が自分の現実として真剣に考えたことは、これから遭遇する問題にも正面から取り組む力が養われたと思います。命の重さも認識したことでしょう。
     
  • 大人でも難しい問いを高校生がひとつひとつ考えていった過程がよくわかりました。このような取り組みが全国に広まるといいですね。