「国民すべてに性教育が必要です」 学校が”性交”を教えない弊害…望まない妊娠や虐待死が後絶たず

(2018年11月20日、23日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる
 予期しない、望まない妊娠によるとみられる中絶や虐待死が後を絶たない。妊娠にまつわる相談を受け付ける一般社団法人「にんしんSOS東京」副代表理事で、助産師の土屋麻由美さん(55)は「事態を防ぐには正しい知識を幼少時から教えることが大切」と訴える。学校での性教育の不十分さも指摘する。

「子どもたちに考えさせる性教育が必要」と話す土屋麻由美さん=東京都練馬区で

虐待死、最多は「生まれたその日」に遺棄

 厚生労働省によると、昨年度の20歳未満の人工妊娠中絶件数は14128件。昨年1年間に、20歳未満の母親から生まれた子どもの数9898人を上回る。

 赤ちゃんの命が奪われる虐待死もなくならない。2007年から昨年3月までに10代で妊娠した母親から生まれ、虐待死した子どもは111人。最も多いのが生まれたその日に亡くなるケースで、25人がトイレやロッカーに遺棄されるなどして命を落とした。

 にんしんSOS東京は避妊や思いがけない妊娠などに関する相談を受け付けている。年代別でみると、10代と20代の相談がそれぞれ35%ずつになっている。

乏しい性知識「下着のまま…」と妊娠を心配

 相談業務を通じて土屋さんが感じるのは、若い世代の性知識の乏しさだ。「下着を着けたまま性器と性器をこすりつけたが妊娠するのではないかと心配」と質問してきたり、生理周期という言葉も排卵の時期に妊娠することも知らない大学生がいたり。

 その理由は「学校での性教育が不十分なため」という。現行の中学校の学習指導要領では、生殖能力が備わる思春期の子どもに、排卵や受精の意味を教える一方、「妊娠の経過は取り扱わない」とする「はどめ規定」を設ける。「つまり『性交は教えない』ため、子どもたちは性成熟に伴う適切な行動とは何かを具体的に考えられない」と土屋さんは話す。

 指導要領に示されていない内容も指導できるが、東京都教育委員会が8月に都内の公立中学校など624校の校長に行った性教育の実施状況調査では、要領に示されていない内容を指導したのは55校(9%)。うち性交に触れるのは3校、望まぬ妊娠に触れたのは2校だった。

ネットの誤った知識が、悲惨な結果を招く

 「教えると性交をかえって助長する」との指摘もあるが、「教えないと、インターネットのアダルトサイトなどで得た誤った性知識のまま、デートDVや望まぬ妊娠など悲惨な結果を招きかねない」。性交や妊娠の仕組みだけでなく、お互いの性的同意、相手への思いやりも含めた人権教育としての性教育の必要性を説く。

 土屋さんは「子どもの成長に応じ、少しずつ教えることが大切」と話す。具体的には、幼少時から「自分を大切に」と家族が教える▽水着で隠れる「プライベートゾーン」をむやみに人に見せたり、触らせたりしない▽逆に相手のものを勝手に触ってもいけない▽嫌なことは嫌と言う-などがある。

 大人自身がセクシュアリティー(性のあり方)を学んでいないから、子どもたちにどう教えていいか分からない。土屋さんは「国民すべてに性教育が必要なんです」と訴えている。

 「にんしんSOS東京」への相談は無料。
 

子どもと性の話、家庭ではどうしたら? 読み継がれている絵本が助けに

 若い世代の予期しない、望まない妊娠を防ぐには、小中学校の性教育の問題だけでなく、家庭での性教育も重要だ。保護者が恥ずかしくて切り出せなかったり、子どもの質問に答えられなかったりすることも。子どもと性の話をしたい時、役立つのが性をテーマにした絵本や本だ。分かりやすい文章、イラストが理解を助けてくれ、長く読み継がれている。
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和歌山静子さんらが手がけた性の絵本3部作

「どこから生まれたの?」に答える『ぼくのはなし』

 「ぼく(わたし)はどこから生まれたの?」という疑問にずばり答えるのが「ぼくのはなし」(童心社 1404円)。「かあさんのおなかのした(中略)バギナとよばれるあなから」生まれたこと、「とうさんのペニスをかあさんのバギナにいれ」、精子が卵子にたどりつく受精の仕組みなどを「王さまシリーズ」の絵本作家和歌山静子さん(78)の絵で説明する。

 性教育研究者の故山本直英さんが監修。水着で隠れる「プライベートゾーン」の重要性を説く「わたしのはなし」(同)、人が助け合い、愛し合う理由を説く「ふたりのはなし」(同)の3部作で、これまでに計17万部余りを発行した。

 1992年の初版当時に編集を担当していた同社販売部の堀内健二さん(61)は「分かりやすい文章とイラストで、子どもたちの素朴な疑問に専門的な見地を交えて答えてくれる。幼児から教えることが大事だと和歌山さんが自ら企画を持ち込んだ」と振り返る。興味を持つ時期は子どもによって異なる。堀内さんは「まずは保護者だけで読んでもらい、どのタイミングで伝えるか考えて」と話す。

性被害から身を守る『とにかくさけんで にげるんだ』

 公園で知らない人に声をかけられたら? 親戚に「服を脱ぐ」ゲームを強要されたら? 「とにかくさけんでにげるんだ」(岩崎書店 1404円)は、誘拐や性被害から身を守る方法を教える絵本。99年の発刊以来、12万部を売り上げた。「入園、入学シーズンに引き合いが増える」(同書店)

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「とにかくさけんでにげるんだ」(岩崎書店提供)

 小学校中学年以上に、第2次性徴をイラストなどで解説する「男の子のからだの絵本」「女の子のからだの絵本」(アーニ出版 各1620円)も、発刊から18年を過ぎても版を重ねる。本文を手がけた同出版共同代表の北沢杏子さん(89)は69年に同社を設立。性教育に関する書籍の出版、教材製作に約50年携わってきた。

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「イラストが理解を助ける絵本はおすすめ」と話す北沢杏子さん=東京都世田谷区で

知的ハンディ持つ子をケアする『Q&Aシリーズ』

 「親と先生のためのQ&Aシリーズ」(各1404円)は、命の誕生や性被害防止、妊娠などに関する子どもの質問や悩みへの回答集。小学生以下、10代、知的障害児の3巻シリーズで、知的障害児の巻は「知的ハンディを持つ子の異性への関心、避妊などに関する疑問に答える書籍はほとんどない。シリーズの中でも特に好評」という。

 北沢さんは「2000年代前半からの性教育バッシングに押され、教科書出版社は萎縮、教員も指導に自信がない」と性教育の現状を語る。「子どもの最善の利益や、虐待や搾取から保護される権利を守るためにも、いざというとき『ノー』と言うこと、逃げることなどをしっかり教えていかなくては。絵本や本がその助けになる」と訴える。

[元記事:東京新聞 TOKYO Web 2018年11月20日 / 2018年11月23日

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