<記者の視点>不妊治療を経験した立場から 体外受精などの保険適用こそ少子化対策

川田篤志 (2020年3月3日付 東京新聞朝刊)
 体外受精などの高度な不妊治療に、公的医療保険を適用するよう国に求める動きが活発化している。子どもをほしい思いと、高額な治療費負担との板挟みに悩む人は多く、切実な声は会員制交流サイト(SNS)を通じて政治の世界にも浸透しつつある。少子化を「国難」と位置づける安倍政権も、保険適用を真剣に検討すべきだ。

川田篤志記者

野党が提言「心身の負担に苦しむカップルに支援を」

 立憲民主党は先月末、保険適用に向けた議論の促進を柱とする提言を厚生労働省に提出した。党ワーキングチームの阿部知子座長は、提言発表の記者会見で「不妊に悩む多くのカップルは心身の負担に苦しんでいる。せめて経済的負担を軽減させたい」と訴えた。保険適用に伴う国の財政負担増について、国民的な合意形成に向け、国内の治療実態の調査も同省に求めた。

 支援の動きは、他の野党議員にも広がっている。国民民主党の源馬謙太郎衆院議員は先月下旬、インターネットを通じて知り合った不妊治療の当事者たちと意見交換し、保険適用に関する超党派の検討チームを作る考えを表明した。日本維新の会の音喜多駿参院議員も保険適用を求める政策をSNSで発信している。

夫婦の5.5組に1組が治療経験 私も手術の末に…

 国立社会保障・人口問題研究所の2015年の調査によると、不妊治療を受けたことがある夫婦は5.5組に1組の割合という。日本産科婦人科学会の集計では、体外受精や顕微授精などの「生殖補助医療」で生まれた新生児は2017年に約5万6000人、同年までの累計は58万人いる。

 私自身も不妊治療を受けた一人だ。精子を作る機能が低下する男性不妊症の「精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)」を患い、手術で精子の質を改善させた末に、第一子を昨年6月に授かった。誰にでも降り掛かる身近な問題だと身をもって体験した。


◇川田記者の体験記〈男性不妊・僕がパパになるまで〉1・診断 ショック…まさか自分が原因とは


生殖補助医療は保険適用外 平均で「約190万円」

 生殖補助医療は保険適用外で、ウェブメディア「妊活ボイス」は、平均の治療費を約190万円と試算する。国などの助成制度はあるが、夫婦あわせて年収730万円の所得制限がある。

 不妊治療の当事者が保険適用を求める署名サイト「change.org」には「顕微授精を何度かしましたが、最終的に金銭的な理由でやめることにした」「国の不妊治療に関する理不尽さや法整備の甘さに歯がみしてきた」など痛切な声が並ぶ。

厚労省「疾病なのか判断難しい 」 仏独では保険適用

 厚労省は保険適用の条件として、疾病に対する治療の有効性などが確立されていることを挙げる。体外受精などは患者の生殖機能を直接改善させる行為ではないため「疾病に対する治療なのか判断が難しい」として、長年適用対象としなかった。

 だが、フランスやドイツなどは不妊症は疾病という認識から、受ける回数などに制限を設けた上で生殖補助医療に保険を適用している。日本も加速化する少子化を踏まえ見直すべきではないか。野党の提言に政府・与党がどう反応するか注視したい。

コメント

  • 不妊治療が保険適応になり、治療が受けられる人が多くなれば少子化に歯止めがかかるかもしれません。 ですが、今この世にいる子供が成人するまでの塾代、大学の学費などにも目を向けて欲しいと思います。 実際
     
  • 病気じゃ無いから保険適用外?? 他人事なのが見え見えだな。少子化の原因が晩婚でさらに不妊治療が増えまくっているのに。 早く結婚しないから悪い、出来ない女性が悪いって程度で考えているだろう。で、10