夫は「とるだけ育休」…妻の3人に1人が不満 取得自体が目的化、家事育児にかかわらない実態

平井一敏 (2020年3月10日付 東京新聞朝刊)

息子に離乳食を食べさせる積水ハウスの岩本達朗さん(左)。育休中に育児と家事を教わり、一人で引き受けた=大阪市内で

 育児休業を取る父親が増えている。小泉進次郎環境相が3カ月で計2週間の育休取得を宣言。政府は4月から、国家公務員の男性に1カ月以上の育休取得を促す。ただ、休みは取るが、家事や育児にはあまり関わらない「とるだけ育休」の父親も少なくないようだ。夫婦で事前に取得時期や役割分担を話し合い、お互いにとって有意義な育児休業にしたい。 

制度は充実してるのに 「5日未満」「家事は1日2時間」

 育児・介護休業法は原則、男女とも子どもが1歳になるまで育休を取れ、取得前の月収の最高67%に当たる給付金を受けられると定めている。

 国連児童基金(ユニセフ)が昨年まとめた子育て支援策の報告書によると、主な41カ国中、男性向けでは日本の制度が最も充実していると評価された。

 ただ、厚生労働省によると、男性の育休取得率は2018年で6.16%。取得日数も4割近くが5日未満にとどまる。職場の人手不足や取りにくい雰囲気、収入減への不安などが背景にあるようだ。さらに、子育て情報サイト「ママリ」の運営会社コネヒト(東京)などが昨年実施したアンケートでは、母親約500人の3人に1人が、育休中の夫が家事や育児を「1日2時間以下しかしなかった」と答えた。取得自体が目的化していることが浮き彫りになった格好だ。

「産後の母親の心と体を理解して、話し合ってほしい」

 アンケートでは「育休を取っても家でだらだら。結局家のことは私がやっていた」「家事の優先順位がつけられず、スキルも足りていなかった」「4日しかない育休の日程を勝手に決め、そのうち何日かは自分の遊びに使った」など、夫への不満が多く寄せられた。

 「とるだけ育休」を防ぐために、ママリ編集長の湯浅大資さん(38)は「産後の母親の心と体を理解し、育休にどう向き合うかを夫婦で話し合ってほしい」と指摘する。夫が育休中に主体的に家事や育児に取り組めば、その後の子育てへの関わり方も変わる。「質の高い育休を過ごせば家族の絆が深まり、子どもはたくさんの愛情を受けて育つことができる」と呼び掛ける。

男性取得100%の積水ハウス 家族ミーティングシートを義務づけて「とるだけ育休」回避

 男性の育休取得率が100%の企業もある。その一つが大手住宅メーカーの積水ハウス(大阪市)だ。18年9月、3歳未満の子を持つ男性社員の育休取得を促す独自の「イクメン休業」制度を導入。「家を世界一幸せな場所にする」とのスローガンの下、まずは社員の家庭を幸せにしようと考えたという。今年1月までに対象の415人全員が1カ月以上の育休を取得した。

 社長自ら取得を呼び掛けた制度は、育休の最初の1カ月を有給としたほか、ボーナスや退職金の算定、昇給昇格に影響しないと明文化。仕事との調整がしやすいよう1カ月分を最大4回に分けて取れるようにした。取得の1カ月前までに同僚らと相談し、どの業務を誰に引き継ぐかなどの計画書を提出することも求めている。「とるだけ育休」にならないよう、夫婦で育休の時期や家事、育児の役割分担などを話し合って決める「家族ミーティングシート」を作ることも条件だ。

 「育児や家事の大変さが身に染みて分かった」と話すのは、一昨年に長男が生まれた同社広報部の岩本達朗さん(31)だ。子どもの保育園入園や、同じ会社で働く妻(36)の職場復帰に合わせ、昨年3~6月に計1カ月の育休を3回に分けて取得した。最初の23日間は、休んでいた妻からミルクや離乳食の作り方など育児や家事の方法を一から教わった。残りの8日間は全て一人で引き受けた。

 この経験から「子育ては夫婦一緒にするもの」という意識が強まったという。今も週4日は息子を保育園に送ってから出社する。「夫婦でいかに効率的にできるかを考えることが大事」と話す。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年3月10日