流産や死産を繰り返す不育症 2021年度から検査費助成、専門医育成へ 「適切に対応できれば85%が出産」
不育症とは
日本産科婦人科学会は「妊娠は成立するが、流産や死産によって子どもが得られない状態」と定義。検査や治療に独自の助成制度を設ける地方自治体は3割にとどまる。政府は2021年度予算案に助成制度創設のため12億円を盛り込んだ。
染色体検査は保険外 1回5万円まで助成
厚生労働省の研究班は、2回以上連続して流産する患者は年間約3万1000人と推計。妊娠を望むカップルの約5%が不育症というデータもあるが、妊娠しにくい「不妊症」に比べて社会的な認知度は低い。
検査費用は高額だ。公的医療保険が適用される親の血液検査などの患者負担は2万~3万円だが、流産・死産した胎児などの染色体検査は保険適用外のため4万~10万円かかる。
先進的に不育症の治療や検査に取り組む名古屋市立大が10年、カップル1676組に行った研究では、原因不明が約70%を占めた。一方、同大が2012年に482組のカップルに行った調査では、胎児などの染色体検査を行った場合は、原因不明が全体の25%にとどまった。
政府の助成は、保険外の胎児の染色体検査に1回当たり5万円を上限に支給する。原因の特定と、患者が妊娠に向き合いやすくなる効果が期待される。
「適切な検査・管理なら85%が出産」
各都道府県などの不妊専門相談センターには、流産や死産の悲しみに寄り添うカウンセラーを育成し配置する。厚労省の民間委託調査では、過去5年間に流産や死産を経験した女性のうち、うつや不安障害が疑われた割合は75%を超えた。
このため、不育症学会は新たに「認定医」制度を導入。約100人の医師が講座で専門知識を学び、今月に最初の認定医が約10人誕生する見通し。当事者団体「不育症そだってねっと」の2018~2019年の調査では、3回以上の流産や死産を繰り返すまで不育症と診断されない人が3割を超え、専門医の育成が急務だ。
学会理事長の杉浦真弓・名古屋市立大教授(産婦人科)は「原因が判明し、適切な検査や管理ができれば85%が出産に至る。出産率の改善が示されていない検査や治療を高額な自由診療で行っているケースもある。認定医が症例を共有できる仕組みをつくりたい」と語る。
7回妊娠して流産4回・死産1回…2児の母の涙「世間に知られない死がある」
検査に約100万円 「不育症を社会に理解してほしい」
女性は、結婚後間もなく双子を妊娠したが9週で流産。2回目も13週で流産した。その後、同様に流産を繰り返す人たちの存在や不育症そのものを知った。
専門医がいる医療機関で検査したが異常はなく、2度目の流産の翌年に妊娠。元気な女の子を産んだ。その2年後、4回目の妊娠では産休直後に胎動を感じなくなった。妊娠8カ月、産声のない男の子を4日かけて出産。死産から1年ほどの記憶はない。
夫は「こんなにつらいなら、もう子どもはいらないよ」と気遣い、娘は赤ちゃんがほしいと口にしなくなった。「目の前の家族を不幸にしてはいけない」。カウンセリングを受け、生きることがつらかった時期を乗り越えた。
37歳で7回目の妊娠をすると、医師の勧めで自己注射で投薬し、おなかの子の心音を聞く機械も購入した。37週で男の子を出産。娘は、2歳になった弟が大好きだ。
女性は、自身や胎児の検査などに約100万円を費やした。政府が助成制度の創設を決めた中で、強く願う。「妊娠し無事に出産するのは当たり前ではない。社会全体が不育症を正しく理解してほしい。私と同じように苦しむ人が、適切な検査や治療で出産できるように」
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