「陣痛も出産も一人」「夫との対面は5日後」コロナ禍の妊娠出産の孤独 6割超の医療機関で出産立ち会いや面会中止

(2022年6月4日付 東京新聞朝刊)

誕生から5日後、退院時に初めて息子を抱くことができた高橋宏美さんの夫=高橋さん提供

日本産婦人科医会が調査

 新型コロナウイルスの感染対策のため、出産時の立ち会いや産後の家族の面会を中止した医療機関が6割を超えていたことが、2022年3~4月の日本産婦人科医会(東京)のアンケートで分かった。長引くコロナ禍が妊産婦の孤立やメンタルヘルスの不調につながる懸念も出ている。

感染リスク考慮 母親学級も6割が中止

 アンケートは、医会が今年3月18日からの1カ月間で全国の分娩を扱う2000以上の医療機関に送り、1382施設から回答があった。

 妊産婦支援への影響では、産後の家族らの面会を中止している施設は77.0%、妊婦健診など外来時の夫らの同伴を中止した施設が73.0%で、いずれも昨年4~5月に医会が行ったアンケートより割合が上がった。妊娠中の母親学級は62.7%、出産時の夫らの立ち会いは63.2%で中止。感染リスクを考慮しているとみられる。

実家の協力も得にくく、支援が希薄に

 「コロナ禍で、メンタルヘルスの問題のある妊産婦は増加していると感じるか」との質問では「明らかに増加した」(1.8%)と「やや増加した」(41.9%)を合わせると43.7%になった。一方、「以前と変わらない」は47.5%だった。

 妊産婦支援の状況とメンタルヘルスの悪化との因果関係は不明だが、相良洋子常務理事は「医療機関の対応だけでなく、実家の協力を得にくいなど、コロナ禍で妊産婦への支援が希薄になり、孤立感は強まっている」と指摘。不安解消の一助にと、医会は妊産婦のメンタルヘルスケアのための動画などを作り、日本産婦人科医会のYouTubeチャンネルで配信している。

 コロナの新規感染者が減少傾向となり、日常生活における感染対策が見直される中、相良理事は「(産科でも)制限を緩和していく施設は徐々に増えていくのではないか」と話す。

孤独な経験談が続々 医師も苦悩「何を優先し、どこまでリスクととらえるか」 

 妊産婦からはコロナ禍でも、出産の立ち会いや産後の面会を求める声が上がる。産科医療に関わる研究者や助産師らのグループ「リプロ・リサーチ実行委員会」は、昨秋からインターネットで募った経験談を基に、厚生労働省などに改善を求めている。

「立ち会いはサービスではなく、必要なケア」 

 「陣痛時も出産も一人で心細かった」「出産後、母子同室ができず、母乳育児のスタートにつまずいた」…。集まった経験談は200を超える。

 2020年夏に次男を出産した際の経験談を寄せた北海道の高橋宏美さん(34)によれば、事前に担当の助産師と会えず、夫の立ち会いもかなわなかった。「産後も家族さえ面会できず、孤独だった」。夫が次男と対面したのは誕生から5日後だったという。

 妊産婦支援について厚労省の手引などは「地域の感染状況による個別判断」とし、医療機関ごとの差が大きい。東京都北区の「スワンレディースクリニック」は健診時の同伴は中止しているが、夫と、生まれる子のきょうだいは抗原検査後、出産の立ち会いや産後の面会を認めている。

 岩本英熙(ひでき)院長は「出産する女性の希望を重視したい。ただ何を優先し、どこまでリスクととらえるか、判断は難しい」と話す。同クリニックでは計画出産が主で、抗原検査の時間を確保できることも、立ち会いを可能にしているという。

 感染対策を前提としつつコロナ禍でも「陣痛や出産の際の立会者は、最低でも一人は許されるべきだ」(国際助産師連盟)という提言もある。実行委メンバーで静岡大の白井千晶教授(家族社会学)は「立ち会い分娩(ぶんべん)や産後の面会は日本では付加的なサービスととらえられているが、妊産婦の心身の安定につながる必要なケアであり、女性や子どもの人権の問題だ」と話す。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年6月4日