保育士の育休復帰には手厚い人員が不可欠です 少子化対策の要が大切にされない矛盾 休みや時短を取りやすい仕組みを
育休復帰 悩む保育士(下)
仕事量の多さや勤務時間の長さから、育休からの復帰をためらう保育士がいる。激務で責任が重すぎるとして、正規職員での復職を諦める人が多いほか、子どもを授かる前に辞める人もいて、保育士不足の一因になっている。国が進める少子化対策に欠かせない人材が、自身の子育てと仕事を両立しにくいという矛盾に苦しんでいる。
改革した園では…多くの職員が復帰
名古屋市緑区の幼保連携型認定こども園「滝の水保育園」は、職員29人のうち8人が産休、育休を取得後も働く。行事を減らすなど仕事量を見直し、情報通信技術(ICT)の導入で事務仕事の負担を軽減。子育て中の保育士が自分の子どもの行事に参加しやすくし、担任が休む時は別の保育教諭が支えるよう勤務を調整している。
その結果、ほとんどの職員が復帰して正規で働いている。全国保育協議会の2021年の調査によると、全ての保育士や保育教諭のうち4割弱は非正規だが、松野恵子副園長は「非常勤が多いと責任ある仕事を任せづらく、仕事は回らないだろう」と語る。
手厚い配置 園児100人に職員40人
横浜市瀬谷区の「鳩の森愛の詩 瀬谷保育園」は、園児100人に対して職員40人と手厚く配置。保育士ら30人のうち、20人が正規職員だ。7、8年前までは結婚などで退職する保育士が多く、瀬沼幹太園長(48)は「このままでは子どもの成長を感じて育つ仲間がいなくなる。これは怖い」と改革に動き出した。
休みを取りやすいように、クラスには複数の常勤職員を置き、人手が減る時間には経験豊かな非常勤職員が入る。「複数の職員でクラスを受け持ち、日常的に安心して働ければ、より子どもに寄り添える時間をつくれる」と話す。
大切にされたら、お互いを尊重できる
大豆生田啓友・玉川大教授は「園全体に、育休などを歓迎する共通理解が大切。働く人は自分が大切にされていると、互いに尊重しあおうと考えられる。現状は厳しいが、普段から職員を手厚く配置することが望まれる」と訴える。
ただ、人材が足りていない現場は多い。保育士の有効求人倍率は、1月時点で3.12と全職種平均の2倍。厚生労働省は2021年度、1日6時間未満などの短時間勤務の保育士が活躍できるように、待機児童のいる自治体に限り、各クラスで常勤の保育士が1人いることを必須としていた規制を撤廃。短時間勤務の保育士2人でも可能とした。
非正規化の懸念 正規職員に負担集中
しかし、関係者からは「保育士の非正規化がさらに進む」との批判も。非正規職員が増えると、正規職員に責任ある仕事が集まり、より負担が増すことも想定される。
介護・保育ユニオン(東京)の共同代表三浦かおりさん(36)は「保育士は限界を超えて働いている人が多い。力尽きて一斉退職ということも起きている。こういう現場を改善するような取り組みをしないで、ただ人員を増やそうとするのは矛盾している」と非難。「保育園を考える親の会」の普光院亜紀顧問は「保育士が子どもを産んで、育休と時短勤務を取りながら一生仕事を続けられる仕組みをつくることこそ保育の質向上につながる」と訴えた。
コメント