子育てを支えるために 川崎市の注目拠点「地域子育て支援センター」 保育所と支援機能を集約
予約は不要で「使い勝手が良い」
「マンション暮らしなので、子どもが大声を出したら近所迷惑になるかもと気になるけれど、ここなら仲間もたくさんいるし、安心して遊ばせられます」
今月2日に開所した川崎市の「宮前区保育・子育て総合支援センター」(宮前区土橋)内にある地域子育て支援センターつちはしに10カ月の男の子を連れてきた母親は、リラックスした様子でこう話した。
就学前の子どもであれば市内外を問わず、事前申し込みなしで利用できる場で、7カ月の子を連れた母親は「遊び道具がいっぱい。ほかのママやパパとも知り合えるし、使い勝手が良いです」と笑顔。別の父親も「広いし、きれいだし、雨の日でも利用できるし、言うことなしです」と喜んだ。
専門家が連携、多様な不安に対応
地域子育て支援センターは川崎市が地域の子育て支援拠点として全7区に整備する計画で、宮前区は川崎区、中原区に続いて3カ所目。3階建ての建物1階と2階には認可保育所の「土橋保育園」、3階には就学前の子どもとその親が利用できる「地域子育て支援センターつちはし」がある。
センターの特徴は、保育所と子育て支援機能を1カ所に集め、保育士や看護師、栄養士など子育ての専門家が連携しながら、さまざまな家庭を支えることができることだ。乳幼児を育てる親が不安になりがちな排せつや離乳食についての相談もできるほか、保育所の人材育成などを担当する区役所の職員もいる。
保育園が「一時預かり」スタート
土橋保育園の新井恵美園長は「上の階に子育て支援担当者がいてくれるのは心強い」と話す。同園は、通院など保護者に用事があるときや、リフレッシュのために就学前の子どもを預かる「一時預かり保育」も今月から始めた。
保育園に5歳の次男を預けている大野涼子さん(33)は「保護者同士が話せる地域の触れ合いの場になる」と支援センターに期待を込めた。(渡部穣)
大都市では出生率の高い川崎 課題も…
「子育て世代に選ばれるまちづくり」
川崎市も「子どもを安心して育てることのできるふるさとづくり」を基本政策に掲げる。福田紀彦市長は今年2月、市議会での施政方針説明で「どこよりも子育てしやすく、子育て世代に選ばれるまちづくりを重点的に進めていく」と宣言。子どもや子育て家庭の不安感や負担感を減らし、安心して子育てできる地域社会をつくっていくことや、子どもたちの学ぶ意欲や態度を育む施策に力を入れる方針を示した。
待機児童対策では、2021年度の保育所数は1平方キロメートル当たり2.28カ所と政令市で最多。中学校給食が2017年に全校で実施されるようになったこともあり、市民アンケートで「子育て環境の整ったまちだと思う」と回答した市民は2015年は26.9%だったのに対し、2019年は32.2%、2022年は38.3%と増えている。
医療や多子減免では遅れ 転出も多く
とはいえ近隣他都市よりも取り組みが遅れるケースもある。小児医療助成制度や多子減免制度の拡充がそうだ。市はこうした少子化対策のための経済支援について「国の責任」との姿勢を見せてきたが、実施を求める声が議会などから強まり、重い腰を上げざるを得なくなった感がある。
14歳以下の市民の人口は2020年のピーク以降減少に転じている。また2022年の市の人口動態では未就学児や小学生の子がいるとみられる世代の転出が目立つ。全国に先駆けて「子どもの権利条例」を制定し、今年9月には子どもや若者の声を市政運営の参考にする取り組みも本格的に始まった。「子育てしやすいまち」を自負する川崎市だが課題も見え隠れしている。(北條香子)