子育てを支えるために 川崎市の注目拠点「地域子育て支援センター」 保育所と支援機能を集約

渡部穣、北條香子 (2023年10月12日付 東京新聞朝刊)

子育て支援センターのおもちゃで遊ぶ親子(写真はいずれも川崎市宮前区で)

【つながる子育て@川崎】少子化の中、子育てをどう支えるか、子どもたちをどう育むかは大きな社会課題となっています。誰とどのようにつながっていけばいいのでしょうか。大都市としては出生率が高い川崎市で子ども・子育てに関わる人たちの思いや取り組みを取り上げていきます。

予約は不要で「使い勝手が良い」

 「マンション暮らしなので、子どもが大声を出したら近所迷惑になるかもと気になるけれど、ここなら仲間もたくさんいるし、安心して遊ばせられます」

 今月2日に開所した川崎市の「宮前区保育・子育て総合支援センター」(宮前区土橋)内にある地域子育て支援センターつちはしに10カ月の男の子を連れてきた母親は、リラックスした様子でこう話した。

園庭で元気に遊ぶ子どもたち

 就学前の子どもであれば市内外を問わず、事前申し込みなしで利用できる場で、7カ月の子を連れた母親は「遊び道具がいっぱい。ほかのママやパパとも知り合えるし、使い勝手が良いです」と笑顔。別の父親も「広いし、きれいだし、雨の日でも利用できるし、言うことなしです」と喜んだ。

専門家が連携、多様な不安に対応

 地域子育て支援センターは川崎市が地域の子育て支援拠点として全7区に整備する計画で、宮前区は川崎区、中原区に続いて3カ所目。3階建ての建物1階と2階には認可保育所の「土橋保育園」、3階には就学前の子どもとその親が利用できる「地域子育て支援センターつちはし」がある。

子どもの布団などを入れる「押し入れ」は、両側の扉が開くように工夫されている

 センターの特徴は、保育所と子育て支援機能を1カ所に集め、保育士や看護師、栄養士など子育ての専門家が連携しながら、さまざまな家庭を支えることができることだ。乳幼児を育てる親が不安になりがちな排せつや離乳食についての相談もできるほか、保育所の人材育成などを担当する区役所の職員もいる。

保育園が「一時預かり」スタート

 土橋保育園の新井恵美園長は「上の階に子育て支援担当者がいてくれるのは心強い」と話す。同園は、通院など保護者に用事があるときや、リフレッシュのために就学前の子どもを預かる「一時預かり保育」も今月から始めた。

 保育園に5歳の次男を預けている大野涼子さん(33)は「保護者同士が話せる地域の触れ合いの場になる」と支援センターに期待を込めた。(渡部穣)

大都市では出生率の高い川崎 課題も…

 全国的に少子化が進む中、川崎市は大都市としては出生率が高い街だ。2021年の出生率は0.797%で、全国の政令市や東京都区部と比較すると、0.832%の熊本市に次いで2位。2020年のデータでは、6歳未満の子がいる世帯割合も8.2%で、浜松市(8.8%)、さいたま市、熊本市(8.7%)に続き4位だった。

川崎市の福田紀彦市長

「子育て世代に選ばれるまちづくり」

 川崎市も「子どもを安心して育てることのできるふるさとづくり」を基本政策に掲げる。福田紀彦市長は今年2月、市議会での施政方針説明で「どこよりも子育てしやすく、子育て世代に選ばれるまちづくりを重点的に進めていく」と宣言。子どもや子育て家庭の不安感や負担感を減らし、安心して子育てできる地域社会をつくっていくことや、子どもたちの学ぶ意欲や態度を育む施策に力を入れる方針を示した。

 待機児童対策では、2021年度の保育所数は1平方キロメートル当たり2.28カ所と政令市で最多。中学校給食が2017年に全校で実施されるようになったこともあり、市民アンケートで「子育て環境の整ったまちだと思う」と回答した市民は2015年は26.9%だったのに対し、2019年は32.2%、2022年は38.3%と増えている。

医療や多子減免では遅れ 転出も多く

 とはいえ近隣他都市よりも取り組みが遅れるケースもある。小児医療助成制度や多子減免制度の拡充がそうだ。市はこうした少子化対策のための経済支援について「国の責任」との姿勢を見せてきたが、実施を求める声が議会などから強まり、重い腰を上げざるを得なくなった感がある。

 14歳以下の市民の人口は2020年のピーク以降減少に転じている。また2022年の市の人口動態では未就学児や小学生の子がいるとみられる世代の転出が目立つ。全国に先駆けて「子どもの権利条例」を制定し、今年9月には子どもや若者の声を市政運営の参考にする取り組みも本格的に始まった。「子育てしやすいまち」を自負する川崎市だが課題も見え隠れしている。(北條香子)

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年10月12日