〈坂本美雨さんの子育て日記〉28・高く高く…母を超えて!

(2019年2月22日付 東京新聞朝刊)

初めての体験。怖いとは言わずにやり終えた

「そーゆーこともあるっ!」私の失敗をフォロー

 最近よく娘からシャワーに一人で入れるので見ていてほしいと言われる。顔に水がかかるのも克服し、意外としっかりやっているが、シャワーの最初の冷水がかかるのが嫌いなので私がお湯になったよとしっかり確認するまでは入らない。

 先日私がシャワーを勢いよくひねり水がかかってヒャッ!と声をあげると、後ろから娘が「…そーゆーこともあるっ!」と足を抱きしめてくれた。達観した慰め方である(笑)。最近では彼女のほうがしっかりしていて、私が開けっぱなしにする化粧水のふたなどを「ちゃんと1回1回しめてね」と閉めてくれる。そうだ、そうやって母の欠点から学んで、超えて行くのだ。

赤レンガ広場で緊張のジャンプ体験

 先日横浜の赤レンガの広場で、手綱を腰に着けて跳ぶ大きなトランポリンがあり、娘がどうしてもやりたいと言い張った。大きな子はビルの2階くらいまで跳び上がって回転したりしている。一応2歳からと書いてあるけれど、絶対怖いと思うよ?本当にやるの?と何度も確認する。なんせ彼女、ついこないだまで、デパートの屋上にあるような50円入れてゆっくり前後に揺れるだけのマシンですら「あぶなーーい! おりるー!」とこの世の終わりのように叫んでいたのだ。こんな高いジャンプ、絶叫するに違いない。

 30分ほど並んでいよいよ彼女の番。台に上がり、係のお兄さんに綱とヘルメットを着けてもらう。だいぶ緊張の面持ち。土壇場でやめるのでは…と思ったが、ふいに顔を上げ「あ! カラス!」とビルの上を指さした。台に上がって普段より開けた視界に鳥の群れが飛び込んできたらしい。「カモメじゃないかなー?」と答えながら、かなり緊張しているはずなのに、遠くを眺めてるんだなと感動した。

新しい景色を見るために

 お兄さんが綱を引くのに合わせてジャンプをすると、ひょんっと持ち上がる。顔は固まったまま微動だにせず、だんだん高く上がっていく。声も上げず、3メートル以上の高さにジャンプしたとき、ほんの少し足を広げてみたのが見えた。結局怖いとは一言も言わずに無事やり終えた。真顔で淡々と上下している姿に思わず笑いが込み上げながら、ふいに涙がこぼれそうになった。

 怖いこと、これからもたくさんあるけれど、登ったらビルの上の鳥が見えたみたいに、きっと新しい景色が見える。あなたにはちゃんとそれが見えた。だからね、これからもどんどんチャレンジしておいで。(ミュージシャン)